日本植物病理学会報
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ナシ黒星病菌のチオファネートメチル剤およびベノミル剤に対する耐性
培地上における完全時代の形成と耐性の遺伝解析への利用
石井 英夫柳瀬 春夫
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1983 年 49 巻 2 号 p. 153-159

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抄録

ナシ黒星病菌を各種の条件下で人工培養し,完全時代の形成を試みた。2菌株の菌糸懸濁液を混合後,ナシ葉煎汁加用Malt Extract Agar, Potato Sucrose Agar,またはナシ葉ディスク上で5C,暗黒下,約6か月間培養した結果,偽子のう殻,子のうおよび子のう胞子を形成した。子のう胞子には発芽力,病原性が認められた。次に,本菌のチオファネートメチル剤,ベノミル剤耐性の遺伝様式を知るために,自然交雑菌および人工交雑菌の子のう胞子分析を行った。ほ場より得た子のう胞子のMBC感受性を順不同四分子分析で調べた結果,耐性と感性が1:1に分離した。また,人工交雑菌のランダム子のう胞子分析の結果,強耐性菌と弱耐性菌の交雑により強耐性と弱耐性が1:1に,中等度耐性菌と弱耐性菌の交雑により中等度耐性と弱耐性が1:1に,また中等度耐性菌と感性菌の交雑により中等度耐性と感性が1:1にそれぞれ分離した。このように,親株の持つ耐性が子のう胞子に伝達されることから,耐性が遺伝子の支配を受けていることが実験的に証明された。また耐性菌の集団中には複数の耐性遺伝子が存在し,おのおのが異なる耐性程度を支配している可能性が示唆された。なお,チオファネートメチル,ベノミルおよびMBCに対する耐性は同一遺伝子に基づく交さ耐性であることが確認された。

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