抄録
エンバク冠さび菌Puccinia coronata var. avenaeの夏胞子には2種の自己発芽抑制物質が存在する。主要物質は既報のmethyl cis-3,4-dimethoxycinnamate (MDC)で,夏胞子を水面に浮かべると,その直後から発芽液中に溶出しはじめ,発芽管出現以前(40分後)までに殆んどが溶離した。他の物質(未同定)は発芽管の出現後に発芽液中に検出された。MDCは発芽をほぼ完全に阻害する濃度(40pg/ml)では発芽管伸長,気孔下のう形成および感染菌糸伸長に影響を示さなかったので,発芽に対して特に阻害力が強いものと思われる。MDCはsodium pelargonate存在では活性が低下した。P. coronata var. avenaeの発芽および感染構造体形成における特性はMDCを生成する他のさび菌類と種々の点で異なり,むしろ,他の自己発芽抑制物質mthyl cis-ferulateを生成するPuccinia graminis var. triticiに類似していた。したがって,同じ自己発芽抑制物質を産生する菌種間では発芽および分化の特性が類似しているとの仮説は再検討されるべきである。