イチゴ黒斑病菌(
Alternaria alternata strawberry pathotype)の生成する宿主特異的毒素(AF-毒素)が,本菌の初期感染過程において果たす役割について検討した。本病菌分生胞子は,その発芽直後からAF-毒素を放出し,その量は時間とともに増加した。一方,本病菌胞子を盛岡16号イチゴおよび二十世紀ナシ葉に噴霧接種すると,感染に伴って,接種葉から電解質の異常漏出が認められた。電解質の異常漏出は,本菌の感染成立以前と成立後の2つの異なる時期に認められた。前者は胞子の発芽直後に放出されるAF-毒素に起因し,後者は宿主組織に侵入した菌糸によるAF-毒素に起因し,共に宿主の原形質膜に障害を与えることを示唆した。感受性イチゴおよびナシ葉を予めAF-毒素で処理しておくと,非病原性
A. alternataの感染を誘導した。一方,本菌の胞子発芽液の高分子分画(inducer)で前処理した感受性葉では病原性
A. alternataの感染を抑制した。しかし,AF-毒素とinducerの両者を処理した場合には,inducerによる感染の抑制が認められなかった。以上の結果から,イチゴ黒斑病菌はその胞子発芽時に放出するAF-毒素によって,宿主細胞に誘起する原形質膜機能の損失を通じ,葉中に存在する抵抗反応の発現を抑制し,菌を感染に導くものと推察した。
抄録全体を表示