日本植物病理学会報
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Diaporthe citriによるカンキツ黒点病ならびに軸腐病に関する研究
第4報 黒点病斑中に生成される抗菌物質について
有本 裕本間 保男見里 朝正
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1986 年 52 巻 1 号 p. 39-46

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抄録

カンキツ果皮および新梢に感染した黒点病菌は病斑内に封じ込められ,ついには死滅する理由を知るために本実験を行なった。まず,葉に黒点病斑を形成させ,その上に新たにD. citri柄胞子を接種したところ,発芽率は約7%であり,健全部位におけるそれ(98%)に比べ著しく抑制された。黒点病斑のエタノール抽出画分が柄胞子の発芽を強く抑制することを確認した。そこで,抗菌物質の単離を試みたところ,強い活性を示す1成分と,それよりも弱い活性を示す4成分が得られた。これらのうち,最も強い抗菌活性を示す成分(抗菌成分D)の結晶化を試み,アセトンー水系から針状結晶を得た。抗菌成分Dは健全なカンキツ組織からは検出されないことからファイトアレキシンと考えられた。なお,抗菌成分Dはそうか病斑,かいよう病斑,スターメラノースおよび虎斑症部からも検出された。一方,健全組織には抗菌成分Dが存在しないにもかかわらず,その抽出物は柄胞子の発芽を阻害した。これはシトリノールなどのpre-inhibitinの作用によるものと考えられた。
以上の結果から,カンキツ組織内に侵入したD. citriの生育が抑制され,その後死滅するのはpre-inhibitinおよびファイトァレキシンの作用によるものと推察された。またこの現象は化学的防衛反応と考えられ,先に報告した物理的防衛反応とともに,カンキツは黒点病菌の侵入に対して2種の防衛反応を行なっていることが明らかとなった。

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