日本植物病理学会報
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ナシ黒斑病菌が誘導生成するクチナーゼの純化と病原性発現における役割
田辺 憲太郎西村 正暘甲元 啓介
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1988 年 54 巻 4 号 p. 483-492

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抄録

ナシ黒斑病菌の宿主侵入機構を解明するために,植物の最外層を構成するクチンに対する本菌の酵素的分解について調べた。本菌の分生胞子懸濁液に,常法によりグレープフルーツ果皮より調製したクチンを添加すると,その胞子発芽液中に顕著なクチナーゼ活性が認められた。しかし,ショ糖添加の場合にはその活性はほとんど認められなかった。また,本酵素活性は,本菌をクチン添加液体培地で培養した培養ろ液でも観察されたが,ショ糖添加培地ではほとんど認められなかった。このようなクチナーゼの誘導生成は,本菌のAK毒素生成失活菌や腐生菌についても認められた。なお,クチナーゼ活性は,数種の有機りん化合物により強く阻害された。これらの有機りん化合物は,菌の胞子発芽には影響することなく,二十世紀葉に対する本菌の病斑形成を著しく抑制した。そこで,本菌が生成するクチナーゼの諸性質を知るため,クチン添加培地で培養した培養ろ液を硫安塩析し,得られた沈殿について,ゲルろ過,クロマトフォーカシングおよび陽イオン交換クロマトグラフィーなどによってクチナーゼの純化を行った。その結果,最終的には,クチナーゼ蛋白質をSDS-PAGEで,分子量約32,000の単一バンドとして純化することができた。以上の結果より,クチナーゼはAK毒素とともに,本菌の病原性発現に必要であることが示された。

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