日本植物病理学会報
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マツ材線虫病の病徴進展におけるキャビテーションの影響
黒田 慶子山田 利博峰尾 一彦田村 弘忠
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1988 年 54 巻 5 号 p. 606-615

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抄録

11年生クロマツにマツノザイセンチュウを接種し, 1週間ごとの伐倒の前日に根元から染色剤を吸収させて,その上昇パターンから木部の通水異常を検出した。木部含水率を測定し,通水異常との関係を明らかにすると同時に,マツ組織の変化,線虫の増殖との関係を調べた。接種2週後に水分の上昇に乱れが観察され,含水率が低下し始めた。樹幹の木口断面では,放射方向に長く白色の線状ないし紡錘形の部分が,染色部と明確に区分されて出現した。この部分では仮道管は水を失い,気体が入っていた。この現象は「キャビテーション(空洞化)」と呼ばれる。健全な樹木では,木部の水はらせん状に上昇するが,線虫接種木ではキャビテーション部位で流れが妨げられて通水パターンが乱れる。キャビテーションの範囲はしだいに拡大し, 4週後には木口断面のほぼ全面を覆った。マツ組織の変化と線虫の増殖は4週後,木部の含水率が健全木の30%に低下してからであった。これらの事実から,形成層や師部の壊死はキャビテーション部位に接した後に水不足により起こったものと判断した。仮道管のキャビテーションがマツの枯死の直接的原因である可能性が高い。他方,漏出した樹脂による仮道管通水の機械的阻害は,非常に小さな範囲に留まるため,枯死の主因とは考えにくい。染色の阻止状況から,疎水性の物質がキャビテーション部位の仮道管内に存在することが示唆された。マツノザイセンチュウがなぜマツを枯らすのかを明らかにするためには,まずキャビテーションの原因を解明する必要がある。

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