日本植物病理学会報
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蛍光抗体法による植物ウイルスの増殖・分布の研究(V)
タバコモザイクウイルス感染タバコにおける葉の発達とウイルスの増殖・分布ならびにモザイク症状の出現
細川 大二郎渡辺 実森 寛一
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1989 年 55 巻 2 号 p. 187-193

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抄録

蛍光抗体法を用いてTMVに感染したタバコの葉の発達と葉内におけるウイルスの増殖・分布を調べ,モザイク葉内におけるウイルスの不均一な分布の生じる原因とモザイク症状の出現する機構とについて検討した。
葉(葉原基)は生長点分裂組織の特異蛍光の認められない部位から発生し,生長の初期にはウイルスの増殖は認められなかった。葉原基の生長が進み維管束の分化が明瞭になったのちに,その篩部に最初にウイルスの増殖が認められた。ウイルスはそこからやがてlaminaへも拡がった。しかし,さらに葉の生長が進み中央脈,2次脈,3次脈が発達する段階になると,これらの葉脈の近傍に特異蛍光の認められない部位が生じ,これらの葉脈の脈間部ではウイルスが多量に増殖するようになった。さらに葉が生長し,モザイク症状が現れる段階になると,ウイルスの増殖の認められない葉脈近傍の部位は緑色部に,脈間部のウイルスの増殖した部位は黄色部へと発展した。また,3次脈より細い葉脈の近傍には特異蛍光の認められない部位は生じなかった。一方ウイルスの接種時にすでに組織分化の進んだ葉ではモザイク症状は現れないが,これらの葉ではウイルスが葉内全体に分布し,前記のように葉脈近傍に特異蛍光の認められない部位の生じることはなかった。これらの結果からモザイク葉緑色部の形成には葉脈近傍の組織分化が関連すると考られた。

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