抄録
本文はPiricularia oryzae(稻熱病菌)の稻組織侵入法を檢索したるものにして,實驗結果の檢討を助成する目的を以て先づ,葉片,葉鞘,莖の表皮組織の形態及びその顯微化學的性質を檢したり。
既に充分生長せる稻の開展時に於ける若葉の表或は裏に對し稻熱病菌を接種したる結果によれば,菌は先づ寄主體上に於て附着器を生ず。而して之が特に上皮の硬化の顯著なる亞鈴状細胞,諸刺毛,諸珪酸突起等の上に生じたる場合に非ざる限り,且又これが寄主の上皮に密着せる場合に於て寄主侵入を行ふものとす。而して機動細胞上及び氣孔副細胞上等に於ては特に容易に侵入し得るものの如し。
花穗の抽出時に於て,その頸節部附近に接種したる結果によれば,葉の場合同樣,特に硬化の顯著なる部分以外に於て,葉の場合に比してやや困難なるも,侵入し得べし。就中小穗梗分岐點附近の莖の同化組織外面の長形細胞,頸節部に生ぜる苞葉の長形細胞等は比較的容易に侵入を受くるものの如し。
葉莖を通じ氣孔裂孔部よりは侵入すること不可能なるが如し。
侵入法は,先づ附着器の寄主に密着せる面に於てこれと略々直角に繊細なる侵入絲を生じ,これは上皮組織を貫通して表皮細胞内に入り,ここに於て膨大して小嚢體を生ず。かくて後は,これより分岐して體内菌絲を生ずるか又はそのまま伸長してこれを生じ,隣在の表皮細胞内に,又内方の同化組織細胞内へ蔓延するものとす。