日本植物病理学会報
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Erysiphe pisiの感染行動に対するオオムギ(非宿主)細胞反応の電子顕微鏡観察
Hiroshi MATSUOKA久能 均小林 一成
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1994 年 60 巻 1 号 p. 3-12

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抄録

エンドウうどんこ病菌Erysiphe pisiの分生胞子を,非宿主であるオオムギの子葉鞘に接種し,その感染行動と子葉鞘細胞の反応を微細構造的に解析した。接種した子葉鞘を光学顕微鏡で観察し,侵入前,侵入開始30分後または15∼16時間後に化学固定した。侵入前に固定した試料では,菌付着器の細胞壁のうち子葉鞘表面に接している側は扁平で薄くなっていたが,子葉鞘細胞内には顕著な変化は認められなかった。侵入開始後30分目に固定した試料を観察したところ,付着器からの侵入菌糸が子葉鞘細胞壁を貫穿し,その菌糸先端部はパピラで覆われていた。パピラ周縁部の細胞質には多数のスフェロゾームが認められ,一部のスフェロゾームの膜はパピラ周縁の細胞膜に結合し,高電子密度の内容物をパピラ内に放出していると考えられる様相を呈していた。スフェロゾームは中心部に高電子密度物質を含み,その物質の周囲に低電子密度層を有していた。パピラは高電子密度物質と低電子密度物質とが層状に混在する様相を呈していた。電子密度の異なるこの様相は,細胞膜に結合したスフェロゾームから放出される高電子密度物質と低電子密度物質に由来すると考えられた。侵入開始後15∼16時間に固定した試料でも,パピラ周縁の細胞膜に結合し内容物を放出しているスフェロゾームが依然として観察された。また,この試料で観察されたすべてのパピラは,侵入開始後30分で固定した試料のそれよりも大きく,層状構造が一層明瞭になっていたので,菌が侵入を開始してから少なくとも15∼16時間はパピラは発達し続けていると推察された。既報のように,E. pisiが子葉鞘細胞に侵入を試みると細胞内に強い拒否性が誘導され,その後少なくとも24時間は拒否性状態が持続する。パピラ形成に関わる代謝の継続的な活性化が,長時間の拒否性の持続に関与していると推察された。

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