抄録
イネいもち病菌が胞子発芽時に生成する基本的親和性成立に関与する毒素で,本菌の宿主植物であるイネおよびオオムギ葉と非宿主植物であるシコクビエ葉を1, 6または12時間処理し,電顕を用いてその作用を観察し画像解析により検討した。毒素による初期変性は処理1時間後から認められ,ミトコンドリアの基質は消失し,クリステ含有率は低下した。これらの毒素作用はミトコンドリアに特異的であり,他の細胞内器官には変化は認められなかった。この現象はオオムギおよびイネの表皮,葉肉および維管束細胞において認められ,さらにイネ葉では毒素生成菌株に感受性であるイネ品種と抵抗性であるイネ品種の双方のミトコンドリアに観察された。一方,非宿主植物のシコクピエではいずれの処理時間においても毒素による微細構造変化は認められなかった。毒素によるミトコンドリアの変性は,イネいもち病菌の宿主植物に種レベルでのみ認められ,毒素の感染誘導活性とよく一致した。これらの結果は,毒素による宿主細胞のミトコンドリア変性はイネいもち病菌が宿主植物との間に基本的親和性を確立するために必要不可欠な現象であることを示唆している。