日本植物病理学会報
Online ISSN : 1882-0484
Print ISSN : 0031-9473
ISSN-L : 0031-9473
ホウレンソウ斑点細菌病の病原細菌Pseudomonas syringae pv. spinaciae pv. nov
尾崎 克巳木村 俊彦松本 邦彦
著者情報
ジャーナル フリー

1998 年 64 巻 4 号 p. 264-269

詳細
抄録

1986年1月から3月にかけて,山口県宇部市および広島県福山市の露地栽培のホウレンソウに斑点性の病害が発生し,大きな被害をもたらした。葉身には初め水浸状の小斑点を形成し,その後2∼6mm前後の円形病斑となり,淡褐色∼褐色を呈し,表面がわずかに隆起する。葉縁に形成された病斑は褐色でやや不整形となる。発病の進展とともに病斑は融合して不整形の大型病斑となり,表面がやや隆起し,粗ぞうになって褐色を呈する。病斑周囲のハローは葉の表面より裏面で明瞭な傾向がある。芯葉,葉脈や葉柄にも発生する。病徴は褐色∼黒褐色のえそ状で,ときに縮葉したり,腐敗することもあるが,腐敗臭はない。発病の激しい株は枯死する。病原細菌はグラム陰性,桿状で1∼数本の極鞭毛を有し,好気性で,普通寒天培地上で乳白色円形の集落を形成する。黄緑色蛍光色素の産生,ポリ-β-ヒドロキシ酪酸の集積,40°Cでの生育および硝酸塩の還元はしなかった。レバンの産生,スクロースの利用およびタバコ過敏感反応は陽性であったが,アルギニンジヒドロラーゼおよびオキシダーゼ活性,酒石酸の利用およびジャガイモ塊茎腐敗は陰性であった。これらの性質およびその他の諸検査項目はPseudomonas syringaeとおおむね一致したが,エスクリン,ツィーン80の分解と2, 3の糖利用性において違いが認められた。接種試験の結果,本細菌はホウレンソウのみに病原性を示し,原病徴を再現した。その他の45属49種の植物には病原性を示さなかった。以上の結果から,本細菌はP. syringaeの新病原型と認め,P. syringae pv. spinaciae pv. nov.と命名するとともに,pathotype strainとして8605 (MAFF 211266)を指定した。

著者関連情報
© 日本植物病理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top