ベトナムの主要な2つの稲作地帯,Red River Delta(北部)およびMekong River Delta(南部)から採集したイネいもち病菌計78菌系を用いて,両地域における本病菌の個体群構造を比較検討した。レトロトランスポゾンMAGGYをプローブとしたDNAフィンガープリンティングの結果,北部の菌株は4つのリネージ(VL1-VL4)に分かれたが,南部の菌株はこれらとは異なる単一リネージ(VL5)に分類された。このことから,北部の個体群の方が遺伝的多様性に富むことが示唆された。さらに,判別品種を用いた病原性検定の結果,両集団におけるレース構成は大きく異なり,共通のレースは見いだされなかった。以上のことから,遺伝的にも病原性においても両個体群の構造は大きく異なることが示唆された。