心身医学
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司会のことば : パネルディスカッション 心身医学研究・心身医療における医の倫理(2003年 第44回日本心身医学総会 沖縄)
宮岡 等大石 光雄
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2004 年 44 巻 12 号 p. 890-

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抄録

研究や発表における倫理面の問題は本学会でもしばしば話題になつていた. それが決定的になったのは第43回日本心身医学会総会(白倉克之会長, 2002年, 東京)で, 多くの応募演題に対して, プログラム委員会で倫理的問題が指摘され議論になった時点であろう. 演者に対して, 倫理的配慮の内容を確認し, それを抄録に加筆するか発表時に口頭で述べることを求めた. しかし, 最終的に倫理面への配慮が不適切ではないかと問題になった演題が残り, 白倉会長は一応発表は認めるが発表会場で演者に詳しい説明を求め, 同時に倫理に関する講演と討論を総会プログラムに取り入れるという苦渋の結論を出した. その学会で筆者は実行委員長という立場にあったため, 翌年の本総会でも倫理に関するパネルディスカッションの司会を担当することになった. 第43回総会で問題になったのは主に研究とその発表に関する倫理であったが, 本総会では治療で直面する倫理的問題を取り上げ, 4人の先生に発表をお願いした. 赤林朗先生(京都大学, 現東京大学)は学会員に対するアンケート調査の結果を中心に述べられた(これは本誌41巻7号に掲載されているので今回の雑誌掲載は辞退された). 村林信行先生(横浜相原病院, 現アーツクリニック大崎)はせん妄, 神経性無食欲症のるいそう, 情動不安定型人格障害患者の自傷行為に対する心療内科医としての対応を, 松林直先生(福岡徳洲会病院)は著しい低栄養に陥った神経性食欲不振症症例に対して実際にとった対応を述べられた. 尾久裕紀先生(北青山診療所)は精神療法における倫理について解説された. 倫理に関する問題は尽きないが, 本特集で取り上げた点については各演者の記載で議論すべき点が明確になっているように思う. 筆者からみて, 村林, 松林両先生の論文の中に医療保護入院の話が出ていることが興味深かった. 筆者は心療内科医との接点が多い精神科医であるが, 精神科医から「うつ病や神経性無食欲症の重症例を, 医療保護入院という方法をもたない医師が治療できるのか. 医療保護入院にしないまでも医療保護入院という受け皿がある状況でないと治療は難しい. 重症例に対応できるとはいえない状況にある心療内科医が, うつ病や神経性無食欲症の専門医を名乗るのはおかしいのではないか」と質問されたことがある. 治療における倫理の問題は, 実は心療内科医や心身医学のアイデンティティーと切り離しては議論できない側面をもっている. 学会当日は盛りだくさんのプログラムの中で本パネルディスカッションヘの参加者が多いとはいえなかったし, 総会以後, 倫理面に関する話題を学会誌などで十分取り上げているとはいいがたい. 本パネルディスカッションの特集によつて少しでも議論が活発になることを祈る.

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© 2004 一般社団法人 日本心身医学会
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