心身医学
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21世紀に展開する生態学的な心身医学
高木 厚司
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2004 年 44 巻 8 号 p. 603-608

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抄録

現代の人類は少なくとも3つの切実な試練に直面している.1つは一瞬にして自らを壊滅させることのできる核エネルギーを制御しなくてはならないこと,2つめは遺伝子の産物である人類が自らの意思で遺伝子を操作するというパラドックスが存在すること,そして,3つめは生物としての適応スピードを凌駕する速さで地球環境を破壊していることである.こういった困難な課題に直面する人類(人間)の存在意義を,20世紀の心身医学の開拓者である池見酉次郎先生は,身体(Bio)・心理(Psycho)・社会(Socio)・生命倫理的(Ethical)な視点から評価することを提唱された.しかしながら,晩年には最後のEを生態学(Ecological)のEに訂正された.これは「人間中心の人間観」から「宇宙的な人間観」への進化と考えることができる.われわれは,日常このような人間存在論を意識しながら臨床や研究を実践することは少ないかもしれないが,患者はさまざまな形で現代社会のもつ矛盾点を具体的な問題提議として臨床の場面にもち込んでくる.その際,多くの治療者がそうであるように,ただ傍観者(批評家)として人類の将来を悲観するだけの投げやりな姿勢が決して健全であるはずはない.私は,こういった人類を取り巻く「さまざまな生態学的な問題点」を,単に受動的な環境因子として甘受するだけでなく,われわれ自身がこれらの因子を主体的,能動的に改変できる立場にあることを自覚するべきであると考える.具体的な行動を通して将来に対する「夢」や「希望」を少しでも患者に抱かせることができれば,実存的な不安が緩和されて治療成績が飛躍的に向上できるかもしれない.本稿では,「技法論としての心身医学」ではなく,「人間存在論としての生態学的な心身医学」を提示し,21世紀の心身医学が目指す方向を独断と偏見で概観してみる.

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© 2004 一般社団法人 日本心身医学会
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