抄録
はじめに:心身医学の分野では多文化間の問題はほとんど議論されてこなかつた.現代はグローバリゼーションの時代ともいわれ,外国との間に人の行き来が盛んになつている.多くの外国人が日本に住むようになり,また日本人も外国へ出かけるようになつている.その中で異国でのストレス刺激により心身の問題を抱え,胃漬傷,喘患など心身症を発症することも報告されている.今回は多文化間心身医学の概念と実際例を紹介し,日本の心身医学の新しい一分野として世界へ発信したい.方法:多文化間心身医学の概念を紹介する.特に多文化間に存在するストレッサーによる身体症状の悪化例,外国滞在中に摂食障害となつた例,外国にて一人で滞在することが摂食障害回復のきつかけとなつた例を紹介し,多文化間心身医学の観点から考察する.結果と考察:多文化間心身医学とは多くの文化の間に生じる心身医学的問題を扱う実践的臨床医学である.多文化間において,社会・環境の変化の結果生じる身体症状発現には文化的要素が関係している.多文化間ストレスはよい方向にも悪い方向にも働く.摂食障害は文化結合症候群というよりむしろ文化変化症候群の立場から症状をとらえたほうがとらえやすい.この変化が本人と家族との心理的距離を適切にし,症状回復に関係したと考える.結論:現代の心身医学は生物・心理・社会・倫理的な視点に加え,社会的視点から独立した多文化的視点が求められているといつても過言ではない.