鹿児島大学内科における心身医学は1959年,金久卓也教授によって導入された.初め心身医学への人々の関心は弱かったが,社会システムや疾病構造の変化に伴う要因やストレスの増加によって拡大していった.しかし,これらの動向によって心身医学が医学教育のカリキュラムに取り入れられることはなかった.1980年代に入って青少年の行動障害や機能性疾患,生活習慣病など慢性疾患の増加,医療費の高騰などが問題となってきたが,それには心理・社会的要因が強く関わるようになっていた.心身医療科設立の認可は心身医学が導入されて34年後の1995年であった.わが国における心身医学の発展の遅れは医療システムの不備もあるが,一般の人々や医療スタッフの中に心の問題に対する忌避的な態度のあることも一因と考えられた.ここでは難治性の神経性食欲不振症と潰瘍性大腸炎を合併した患者の行動医学的アプローチの実際を紹介した.患者はわれわれの治療法によって軽快退院,その後20年間,彼女の病気の経過は良好であった.この結果は難治性疾患への新しい治療法の1つとして心理・身体・社会要因を配慮した統合的治療法が有用であることを示唆している.したがって,21世紀においては心身医学・医療の重要性は必須となっていくと考える.今後心身相関のメカニズムについては医学教育だけでなく,一般教育のカリキュラムにも採用されるべきであることを強調したい.