2013 年 53 巻 7 号 p. 682-686
慢性疼痛は,臨床場面で頻繁に出会う症状でありながら,管理が困難な問題である.慢性疼痛治療には,従来抗うつ薬が用いられてきた.今回筆者は,全身の疼痛と倦怠感のため,内科にて精査を受けたが異常所見を認めず,心療内科を紹介されてきた事例を経験した.当初,慢性疼痛に有効とされるmilnacipranを投与したが,悪心が強く継続できなかったものが,mirtazapine 15mgへの変更で疼痛抑制,睡眠障害・食欲低下の改善をみた.本事例は,同剤中止のたびに慢性疼痛が再燃し,再開により改善した.本事例では,mirtazapineが,抗うつ作用よりも短時間かつ低用量で疼痛抑制効果を示した.Mirtazapineの疼痛抑制機序は,dual action作用のほか,そのラセミ体S(+)体/R(-)体の相乗作用,炎症性サイトカインの活性抑制および内因性オピオイドシステムとの関与が示唆されており,臨床的にも薬理学的にも有望な疼痛抑制剤といえよう.