抄録
がんに対する新しい治療法が飛躍的に進歩している今日においては,「がんイコール死」という文脈は必ずしも正しいものではなくなってきたが,現在においても約半数のがん患者は死亡する.実際,わが国では1981年以降がんは死因の第1位であり,現時点においてもがんは致死的疾患の代表である.したがって,がんに羅患すること自体が大きなライフイベントであり,先行研究から,がん患者が経験する心理的苦痛は強く,中でもうつ病,うつ状態の頻度が高いことが示されている.がん患者にみられるうつ病,うつ状態は,QOLの低下や家族の精神的負担の増大の原因になるのみならず,希死念慮や自殺の最大の原因になることが示されている.以上より,がん患者のうつ病,うつ状態を適切にマネジメントする必要性が国際的にも認識されるようになってきた.本稿では,最近のエビデンスをもとに,がん患者のうつ病,うつ状態に対する薬物療法,心理療法について概説する.