2022 年 62 巻 2 号 p. 167-175
長期間社会との関係をもたない「ひきこもり」は,現在大きな問題となっている.医療におけるその支援過程に関する報告はいくつかあるが,親と死別している症例で,生物心理社会的アプローチを統合的に論じた報告は,われわれの知る限りない.今回,35年間自宅にひきこもっていた49歳女性が,母親の死後,極度の低体重をきたし心療内科を受診し,入院治療の後,地域生活につながった症例を経験した.背景には自閉スペクトラム症が疑われた.安心感を促すために,簡潔に穏やかに話しかけ,メッセージを視覚化した.食事療法による身体的治療のみならず,生活技能の習得と喪の作業,そして地域での生活環境の調整が有用であった.ひきこもりへの支援は,身体的治療に加えて,心理社会的な支援が必要である.そして患者が安心できる環境を提供することがきわめて重要である.