心身相関を,脳の中枢と身体の末梢の双方向的な相互関係と捉え直すなら,その媒介変数として,自律神経系の働きの意義が改めて注目される.その観点から,心臓の精神生理学的研究を通して,自律神経系の新たな見方を提示したのが「ポリヴェーガル理論」である.迷走神経の遠心路が,哺乳類以降2分される解剖学的事実に基づき,自律神経系を背側迷走神経複合体/交感神経系/腹側迷走神経複合体の3段階で把握することで,この理論は,①交感神経系による “闘うか逃げるか” の可動化システムに加え,背側迷走神経複合体による “凍りつき” ~ “虚脱” の不動化システムの2種類の防衛反応を提示し,②腹側迷走神経複合体による “安全感” の社会的関与システムにより,自律神経レベルにも固有の社会的な機能を提示し,ストレスのみならずトラウマの①発症と②回復のメカニズムの解明に寄与する.本稿では,このことが心身相関に対してもつ意義と課題を検討する.