心身医学
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巻頭言
第63回日本心身医学会総会ならびに学術講演会
基調講演
  • Hans-Christian Deter
    2024 年 64 巻 3 号 p. 207-215
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    Physicians from many medical societies within the Japanese Society of Psychosomatic Medicine (internal medicine, gynaecology, dentistry, and anaesthesiology) have questioned how to appropriately diagnose psychosomatic patients in these different disciplines, and how to then determine the varied therapeutic response each patient may need. Another question of importance is whether individual disciplines require their own personalized systems of psychosomatic diagnosis or a common psychosomatic diagnostic system designed by an individual discipline may work for all other disciplines. Considering the latter, what does it then mean when a discipline such as psychiatry has the sole authority to present definitions for psychosomatic disorders in all disciplines depending on the quality of studies that have been published in that field over the last five to ten years? I will endeavour to discuss with you the redefinition of new concepts of psychosomatic disorders in Japan and call attention to the complications arising from the diagnoses of “bodily distress disorder/somatic symptom disorder”, “functional disorders”, “physical diseases with a psychosocial cause”, “depression” or “anxiety”, which exacerbate the course of physical disease via psychosocial triggers. From a psychosomatic viewpoint, we can describe these disorders as a psychiatric mind or neurological brain dysfunction, or a complex mind-brain-body interaction, including an internal medicine perspective, as has been demonstrated in irritable bowel syndrome (IBS). I reject the idea of the predominant view of psychiatry, neurology, sociology, and internal medicine in order to understand and treat these disorders. High-level international scientific representatives for classification systems (ICD-11, DSM-5), patients, society, and the country’s health system must decide on this important issue of psychosomatic disorders.

  • 訳 河合 啓介
    2024 年 64 巻 3 号 p. 216-224
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    日本心身医学会に属する多くの医師たちは,異なる診療科(内科,婦人科,歯科,麻酔科)での心身症患者をどのように適切に診断し,それぞれの患者に必要なさまざまな治療対応をどのように決定するかについて疑問をもっています.また,個々の診療科がそれぞれのパーソナライズされた心身症診断システムを必要とするのか,または1つの診療科によって設計された共通の心身症診断システムが他のすべての診療科に適用可能かという問題も重要です.後者を考慮すると,精神科が過去5年から10年にわたってその分野で発表された研究の質に基づいて,すべての分野の心身症の定義を提示する唯一の権限をもつということは,何を意味するのでしょうか? 私は,日本における心身症の新しい概念の再定義について議論し,「身体苦痛症/身体症状症」「機能性障害」「心理社会的原因をもつ身体疾患」「うつ病」または「不安」などの診断から生じる複雑さに注意を喚起します.これらは心理社会的要因によって身体疾患の経過を悪化させます.心身医学の観点から,これらの障害を精神的な心の機能不全,神経学的な脳の機能不全,または複雑な心-脳-体の相互作用として記述することができます.これは,過敏性腸症候群(IBS)で示されているように,内科の視点を含んでいます.私は,これらの障害を理解し治療するために,精神医学,神経学,社会学,内科が主流であるという観点を否定します.国際的な学術責任者(ICD-11,DSM-5),患者,社会,そして国の医療システムは,心身症の重要な問題について決定を下さなければなりません.

第64回日本心身医学会総会ならびに学術講演会
教育講演
  • 鈴木(堀田) 眞理
    2024 年 64 巻 3 号 p. 225-231
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    神経性やせ症の診療での工夫と注意点を概説する.疾病教育は問診から始まっている.臨床検査の第一の目的は器質的疾患の除外である.プライマリケアでは内科的緊急入院の必要性と労作制限を判断する.ホルモンや骨密度など異常を出せる検査をして,心理教育に反映させる.低血糖性昏睡は予防が重要で,排出行為に伴う低カリウム血症の治療は水と食塩による脱水の改善である.低身長の予防は低体重期間の短縮で,低体重のままで骨密度を正常化させる薬物療法はない.患者はやせによる心理的メリットよりも体重増加のメリットが優ると認識したときに体重増加を受け入れる.患者にとって回復過程での大食期が最も辛い時期であることは見逃されている.家族は回復の資源であり,患者との適切なかかわり方を学ぶことでケア負担感が軽減する.回復には,回避としてのやせを手放すためにレジリエンスを高める支援をする.専門職,家族,学校関係者の連携は,険しい治療の中で患者にも彼ら自身にも助けになる.

  • 津田 真人
    2024 年 64 巻 3 号 p. 232-238
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    心身相関を,脳の中枢と身体の末梢の双方向的な相互関係と捉え直すなら,その媒介変数として,自律神経系の働きの意義が改めて注目される.その観点から,心臓の精神生理学的研究を通して,自律神経系の新たな見方を提示したのが「ポリヴェーガル理論」である.迷走神経の遠心路が,哺乳類以降2分される解剖学的事実に基づき,自律神経系を背側迷走神経複合体/交感神経系/腹側迷走神経複合体の3段階で把握することで,この理論は,①交感神経系による “闘うか逃げるか” の可動化システムに加え,背側迷走神経複合体による “凍りつき” ~ “虚脱” の不動化システムの2種類の防衛反応を提示し,②腹側迷走神経複合体による “安全感” の社会的関与システムにより,自律神経レベルにも固有の社会的な機能を提示し,ストレスのみならずトラウマの①発症と②回復のメカニズムの解明に寄与する.本稿では,このことが心身相関に対してもつ意義と課題を検討する.

  • 田川 菜月, 船戸 弘正
    2024 年 64 巻 3 号 p. 239-245
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    視床下部外側野のニューロンが産生する神経ペプチドであるオレキシンは,摂食行動を促進するペプチドとして同定されたが,その後の研究により睡眠覚醒制御において必須の役割を果たしていることが明らかになった.また,摂食に関しては基礎的な摂食行動よりも報酬価の高い食事への嗜好に関与していることや,摂食行動を含めたエネルギー出納のバランスが肥満側に偏らないように作用していることが明らかになっている.本稿では,オレキシンを通して,中枢神経系による摂食,睡眠,エネルギー代謝などの制御について概説する.

シンポジウム:摂食障害の臨床倫理を考える
  • 菊地 裕絵, 作田 亮一
    2024 年 64 巻 3 号 p. 246
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー
  • ―心療内科の立場から―
    髙倉 修
    2024 年 64 巻 3 号 p. 247-252
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    九州大学心療内科には毎年多くの摂食症(摂食障害)患者が来院するが,治療を途中で中断するケースも散見されている.また,心療内科において摂食症患者を入院させる場合,医療者と家族による説得に多くの時間とエネルギーを割かざるを得ないこともしばしばである.深町は,十分な時間をかけて説得し同意を得たうえでの入院となれば,入院目標の半分を達成したといっても過言ではないと述べており,こうした作業は治療上,きわめて重要と考えられる.なぜならば,さまざまなことから回避するという摂食症の精神病理に立ち向かい,患者は回復する道への大きな一歩を踏み出したことになるからである.一方,治療への説得がどうしても届かなかったり,入院をしたとしても一切の治療を拒否したりするケースがときに存在し,法的拘束力のない心療内科の枠組みにおいて,こうした患者をどのように治療に導き,命を救えばよいのかという課題がある.

    本稿では心療内科領域における摂食症診療の倫理的課題について,若干の考察を交え報告する.

  • 桑原 博道, 福田 梨沙
    2024 年 64 巻 3 号 p. 253-263
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    摂食障害の倫理的課題が民事訴訟,刑事訴訟の場に顕れることがある.

    民事訴訟の場では,摂食障害のある入院患者に身体拘束を行った場合に,損害賠償請求訴訟が提起され,損害の公平な分担として,身体拘束の違法性が問題となる.この点,身体拘束の必要性に対する判断においては,医療者の裁量が認められている.

    他方,刑事訴訟の場では,摂食障害の患者が万引きをした場合に,刑罰を加えることやその内容についての妥当性が問題となる.この点,刑罰の正当化根拠として,犯罪者が再び罪を犯さないようにするためという考え方を踏まえると,こうした場合に刑罰を加えるのは相当でないようにもみえるが,実際には,こうした場合に,無罪となった裁判例は認められなかった.しかし,摂食障害の患者については,執行猶予期間中に再び万引きをした場合においても,再度の執行猶予と保護観察処分が付され,社会内処遇が行われる傾向にある.

原著
  • 會田 友里佳, 林 果林, 端 こず恵, 中嶋 希和, 松崎 淳人, 齋木 厚人, 桂川 修一
    2024 年 64 巻 3 号 p. 264-273
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    [早期公開] 公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー

    近年肥満症は内科治療に加え,外科治療も盛んになりつつあるが,患者のストレス低減を担っていた情動的摂食を阻害する可能性もあり,減量・代謝改善手術前には心理社会面の評価が重要といわれている.当院では肥満症の多職種チームにメンタルヘルスの専門家も加わり,術前に心理社会的評価および心理テストを行い,なぜ高度肥満症に至ったのかの多因子をなるべく明らかにする視点をもちながら,本人の認知行動や能力上の傾向,精神疾患の有無やストレス状態などを評価し必要時には治療を行っている.本研究は肥満症患者の肥満度および食行動(binge eating)と抑うつ・不安との関連性について検討することを目的とした.減量・代謝改善手術候補者の術前心理社会的評価の際行ったbody mass index(BMI),ベック抑うつ質問票(Beck Depression Inventory)-Ⅱ,State-Trait Anxiety Inventory-Form(STAI),Bulimic Investigatory Test Edinburgh(BITE)について解析した.結果,BITEとBDI・STAI状態・STAI特性との間に有意な相関を認めたが,BMIとBITEには有意な相関は認められなかった.このことから過食症状が重度であるほど,抑うつや不安を強く感じる傾向があると考えられた.患者に対応する際は,肥満度とは関係なくBITEをはじめとしたメンタル指標を用いつつ潜在している食行動の問題,抑うつや不安に留意し介入する必要がある.

連載 心身医療の伝承―若手治療者へのメッセージ
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