抄録
トレハラーゼはトレハロースをグルコースに分解する酵素で,ヒトでは小腸・腎臓の刷子縁膜に局在し,腎尿細管障害により尿中に排泄される。これまで尿中活性のみでその病態的意義が推察されてきたが,酵素活性は失活する可能性があり,測定法も煩雑という問題があった。そこで本酵素のモノクローナル抗体を作成しELISAによる定量法を確立した。また健常児と腎疾患患児とを対象として,ELISAによる酵素量と比色法による活性とを測定した。酵素活性はネフローゼ症候群や慢性糸球体腎炎の蛋白尿を有する時期と尿細管障害群とで正常群に比較して有意に高く,酵素量では6.2倍から260倍とさらに高値であった。急性腎不全症例では活性が正常範囲内でも定量値は正常群の27倍で,酵素活性と定量値とは必ずしも相関せず,活性では推察できない尿細管障害が明らかとなった。ELISAによる酵素定量は,簡便で感度の高い腎尿細管障害マーカーと考えられた。