日本小児腎臓病学会雑誌
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総説
小児期ネフローゼ症候群におけるシクロスポリン慢性腎障害の発症機序
飯島 一誠浜平 陽史小林 明子中村 肇吉川 徳茂
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2000 年 13 巻 2 号 p. 103-106

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抄録

【目的】 近年,ラットのシクロスポリン (CyA) 慢性腎障害モデルが確立され,少なくとも動物モデルでは,CyAにより腎内renin-angiotensin system (RAS) が活性化され,細動脈病変 (CAA) や間質の線維化などの尿細管間質病変が形成されると考えられている。本研究の目的は,ヒトのCyA慢性腎障害におけるintrarenal RAS活性化の役割を明らかにすることにある。
【方法】 頻回再発型あるいはステロイド抵抗性ネフローゼ症候群でCyA投与後完全寛解となった患者で,CyAを2年間以上服用し,CyA投与前後で腎生検を施行しえた26症例を対象とし,CyA投与前後の腎生検組織パラフィン切片を用いて,レニンの免疫染色を行い,レニン陽性細胞数とCyA慢性腎障害,特にCAAおよび間質の線維化との関連について検討した。
【結果】 (1)CAAは26例中11例 (42%) に,間質の線維化も26例中11例 (42%) に認められた。(2)レニン陽性細胞は,CyA投与前は主として解剖学的に明らかなJGA内に認められたが,CyA投与後にはJGAより距離のはなれた細動脈内にも認められ,レニン陽性細胞のdistributionの変化が認められた。(3)CyA投与後は投与前に比して,糸球体あたりのレニン陽性細胞数は有意に増加した (1.26±0.24 vs. 4.30±0.40,p<0.0001)。(4)CAAが認められる症例は,CAAのない症例に比して,レニン陽性細胞数は有意に多かった (5.16±0.59 vs. 3.67±0.48,p=0.031)。(5)CyA慢性腎障害のためCyAを中止した後,レニン染色も含めたCyA慢性腎障害の再評価をしえた7症例では,CyA中止により,レニン陽性細胞数は有意に減少し (4.18±0.69 vs. 2.10±0.25,p=0.018),CAAも改善した。(6)一方,間質の線維化の有無とレニン陽性細胞数との間には有意な関連はなく,CyA投与中に長期間高度蛋白尿を呈した症例に,有意に間質の線維化を認める頻度が高く (64% vs. 17%,p=0.021),その程度も高度であった (fibrosis score: 0.71±0.16 vs. 0.17±0.11,p=0.015)。
【結論】 小児のネフローゼ症候群に対するCyA長期投与は,ラットモデルと同様に,腎内RASを活性化し,CAAの発症に関与している可能性があるが,間質の線維化と腎内RAS活性化の関連は明らかではなく,CyA投与中の長期間の高度蛋白尿がその発症のリスクファクターのひとつであると考えられた。

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© 2000 一般社団法人 日本小児腎臓病学会
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