抄録
症例は4歳の女児で,家族歴に腎疾患を認めず,保育所の検尿にて初めて無症候性蛋白尿と微小血尿を指摘された。保育所検尿の2週間後にアデノウイルス感染症に罹患し,高熱とともに高度蛋白尿と肉眼的血尿を認めた。解熱後も蛋白尿ならびに血尿が持続するため,IgA腎症を疑って腎生検を施行した。光顕上は微小変化群を呈し,蛍光抗体法で糸球体係蹄壁に沿ってび漫性,顆粒状にIgGとC3の沈着を認めたため,膜性腎症と診断した。経口プレドニゾロンと塩酸イミダプリルの併用にて治療を開始したところ,蛋白尿は速やかに消失した。現在も微小血尿が残存しているが,寛解を維持している。本症例は,HBs抗原は陰性,血清補体価は正常,抗核抗体ならびに抗DNA抗体も陰性で,ループス腎炎は否定的であった。腎組織でのアデノウイルスのPCRは陰性であったが,膜性腎症の増悪にアデノウイルスの関与が強く示唆された症例である。