わが国では法制度のもとに学校検尿が実施され,小児腎疾患の早期発見と治療成績の向上に貢献してきた。しかし,本制度に基づく疫学調査がほとんど行われていないのが現状である。また,小児腎疾患として頻度の高い特発性ネフローゼ症候群についても,全国規模の疫学データがほとんどない。今回私たちは,新潟市における学校検尿に基づく小児IgA腎症の疫学調査および新潟県内ネットワークを利用した小児ネフローゼ症候群の疫学調査を試みた。
1993年から2006年の新潟市内の学校検尿受診者を対象に調査を行ったところ,受検者10,000人あたり毎年約0.68人の新規発症IgA腎症患者が学校検尿で発見されていることが明らかとなった。また,学校検尿で発見される症例 (学校検尿群) は肉眼的血尿等で直接医療機関に受診した患者 (肉眼的血尿群) より,発症から腎生検までの観察期間が有意に長く,治療2年後の寛解率は有意に高かった。
新潟県内のネフローゼ症候群は毎年15歳未満の小児10万人あたり平均4.2人が新規に発症していた。この頻度は約40年前とほぼ同等であったが,小児人口の減少によって,有病数は約3分の2に大きく減少していると推測された。
学校検尿制度を実施しているわが国は,他国では不可能なデータ解析を可能とし,疫学調査のみならず臨床上の有益な情報収集に寄与するものと考えられた。また,情報ネットワークの構築とその拡大が全国規模の疫学調査には不可欠であると考えられた。
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