日本小児腎臓病学会雑誌
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21 巻, 2 号
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原著
  • 松倉 裕喜
    2008 年21 巻2 号 p. 91-94
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     症例は4歳の女児で,家族歴に腎疾患を認めず,保育所の検尿にて初めて無症候性蛋白尿と微小血尿を指摘された。保育所検尿の2週間後にアデノウイルス感染症に罹患し,高熱とともに高度蛋白尿と肉眼的血尿を認めた。解熱後も蛋白尿ならびに血尿が持続するため,IgA腎症を疑って腎生検を施行した。光顕上は微小変化群を呈し,蛍光抗体法で糸球体係蹄壁に沿ってび漫性,顆粒状にIgGとC3の沈着を認めたため,膜性腎症と診断した。経口プレドニゾロンと塩酸イミダプリルの併用にて治療を開始したところ,蛋白尿は速やかに消失した。現在も微小血尿が残存しているが,寛解を維持している。本症例は,HBs抗原は陰性,血清補体価は正常,抗核抗体ならびに抗DNA抗体も陰性で,ループス腎炎は否定的であった。腎組織でのアデノウイルスのPCRは陰性であったが,膜性腎症の増悪にアデノウイルスの関与が強く示唆された症例である。
  • 坂本 謙一, 川勝 秀一, 野村 文, 日比 喜子, 松下 浩子, 藤田 克寿, 長村 吉郎
    2008 年21 巻2 号 p. 95-99
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     現在,腎疾患患児や検尿異常児に対しては,日本学校保健会の学校生活管理指導表を目安に運動制限や生活制限が行われている。今回われわれは,IgA腎症の患者に対して運動制限を行うことの意義を運動負荷前後の尿蛋白量の変化や起床時と就寝時のクレアチニンクリアランス (以下,Ccr) の変化を指標として検討した。その結果,京都市学校医会の腎臓病相談事業に参加した延べ38名を対象とした運動負荷試験では,早朝尿蛋白/クレアチニン比 (以下,尿TP/Cr) が0.10以上の患児のみ,運動負荷後に尿蛋白量が増加した。また,当院に腎生検施行のため入院した66名を対象とした起床時と就寝時のCcr変化の検討では,早朝尿TP/Crが0.30以上の患児において,早朝尿TP/Crが0.30以下で認められていた起床時Ccrと就寝時Ccrの有意な変化が認められなくなっていた。IgA腎症において早朝尿に蛋白が多くみられる群は,運動による何らかの影響を受けている可能性が示唆された。腎疾患患児には何らかの適切な運動処方が必要と考えられるが,内容についてはさらに検討が必要と思われる。
  • 松村 千恵子, 倉山 英昭, 北村 博司, 金本 勝義, 安齋 未知子, 飛田 尚美, 宇田川 淳子, 城 謙輔
    2008 年21 巻2 号 p. 100-105
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     小児期発症膜性増殖性腎炎 (Membranoproliferative glomerulonephritis; MPGN) の長期予後を明らかにすることを目的とした。対象は1973年1月より2006年12月までの特発性MPGN 60例 (I型 50例,Dense Deposit Disease7例,III型3例) で,無症候性発症群 48例と有症候性発症群 12例に分け,臨床所見と病理像を比較検討した。無症候性発症群 48例の大半は学校検尿による発見例で,83%は尿所見正常化し,腎病理所見も改善,補体も正常化,腎不全は1例もなく,早期発見・早期ステロイド治療 (ステロイドパルスまたは連日療法後の隔日療法) による長期予後は良好であった。有症候性発症群においては,12例中4例は発症時よりネフローゼ症候群 (NS) を呈して末期腎不全に移行した。発症時のNS,初回腎生検における高率の半月体形成が予後不良の要因と考えられた。
  • 山田 拓司, 上村 治, 牛嶌 克実
    2008 年21 巻2 号 p. 106-109
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     Jaffè法で測定した血清クレアチニン値によるSchwartzのクレアチニンクリアランス (以下,Ccr) の推定式において,現在日本で広く使われている酵素法で測定したクレアチニンをそのまま使用できないかの検討を行った。年齢の違いによる係数を用いることで,Schwartzの式を用いることが,可能となった。その場合の係数は,13歳以上の男児で0.53,2歳から12歳の男女と13歳以上の女児では約0.40であった。
  • 池住 洋平, 鈴木 俊明, 唐沢 環, 内山 聖
    2008 年21 巻2 号 p. 110-115
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     わが国では法制度のもとに学校検尿が実施され,小児腎疾患の早期発見と治療成績の向上に貢献してきた。しかし,本制度に基づく疫学調査がほとんど行われていないのが現状である。また,小児腎疾患として頻度の高い特発性ネフローゼ症候群についても,全国規模の疫学データがほとんどない。今回私たちは,新潟市における学校検尿に基づく小児IgA腎症の疫学調査および新潟県内ネットワークを利用した小児ネフローゼ症候群の疫学調査を試みた。
     1993年から2006年の新潟市内の学校検尿受診者を対象に調査を行ったところ,受検者10,000人あたり毎年約0.68人の新規発症IgA腎症患者が学校検尿で発見されていることが明らかとなった。また,学校検尿で発見される症例 (学校検尿群) は肉眼的血尿等で直接医療機関に受診した患者 (肉眼的血尿群) より,発症から腎生検までの観察期間が有意に長く,治療2年後の寛解率は有意に高かった。
     新潟県内のネフローゼ症候群は毎年15歳未満の小児10万人あたり平均4.2人が新規に発症していた。この頻度は約40年前とほぼ同等であったが,小児人口の減少によって,有病数は約3分の2に大きく減少していると推測された。
     学校検尿制度を実施しているわが国は,他国では不可能なデータ解析を可能とし,疫学調査のみならず臨床上の有益な情報収集に寄与するものと考えられた。また,情報ネットワークの構築とその拡大が全国規模の疫学調査には不可欠であると考えられた。
総説
  • 野津 寛大, 飯島 一誠, 松尾 雅文
    2008 年21 巻2 号 p. 117-121
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     Alport症候群は難聴を伴う遺伝性進行性腎疾患で,高頻度に末期腎不全へと進行する疾患である。中でも最も頻度の高い,X染色体連鎖型Alport症候群を中心に概要をまとめる。
  • 岡田 満, 柳田 英彦, 杉本 圭相, 藤田 真輔, 小林 真規, 柴崎 敏昭, 竹村 司
    2008 年21 巻2 号 p. 122-125
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     MZRの吸収メカニズムについてはいくつかの報告がみられるが,詳細は不明な点が多い。今回われわれは,ミゾリビン (MZR) 吸収におけるhuman Na+/nucleoside cotransporter (hCNT2) 輸送系の役割について検討した。
     MZRの吸収には,腸管におけるhCNT2による輸送機構が関与していることが証明された。イノシン酸が競合的にMZRの吸収を抑制したことから,食事の影響に配慮した投薬法を考慮すべきであると考えられた。また,hCNT2の変異とMZR吸収率との相関は,今回の検討では認められなかった。しかし,今後は症例数を拡大して検討を行う必要があると考えられた。
  • 杉本 圭相, 藤田 真輔, 柳田 英彦, 岡田 満, 竹村 司
    2008 年21 巻2 号 p. 126-133
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     HB-EGF, Heparin-binding EGF-like growth factors (HB-EGF) はEGFファミリーに属し,ヘパリン結合EGF様ドメインを含む細胞膜貫通型の前駆体 (ProHB-EGF) として合成される1)。ProHB-EGFとして細胞膜表面に発現した後,プロテアーゼによるプロセッシングをうけ,遊離型HB-EGF (solubleHB-EGF) となり,その受容体であるEpidermal growth factor Receptor (EGFR) に結合し,活性化させる2)。proHB-EGFはsHB-EGFの単なる前駆体としてだけではなく,膜蛋白質としても機能しており,隣接する細胞表面のEGFRと結合することでその生物学的活性を発現する (Juxtacrine活性)3)4)。プロセシングを抑制させた非分泌型膜結合型HB-EGFを強制発現させたMDCK II細胞が,培養plastic dish上において,細胞接着と運動能の促進を認め,さらにEGF様ドメインのチロシンリン酸化を抑制した変異型非分泌型膜結合型HB-EGF細胞では,それらが抑制された。Western Blotting解析では,前者におけるFocal Adhesion Kinase (FAK),パキシリンのリン酸化発現が高いことが確認され,細胞接着および運動能におけるHB-EGFの関与を示唆するとともに,非分泌型HB-EGF細胞において,EGFR活性が細胞の動態に深く関与していることを根拠づける結果であると考えられた。
  • 藤田 真輔, 岡田 満, 柳田 英彦, 杉本 圭相, 竹村 司
    2008 年21 巻2 号 p. 134-137
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     CyAは,適正な血中濃度を厳守した場合,約2年間は腎障害も少なく,安全に使用できる。私たちは,通常のCyA療法を実施したにもかかわらず,約2年間の投与で著明な糸球体虚脱~硬化に至った複数の症例を経験し,その一因に,未熟糸球体の残存が関与している可能性を見出した。対象は4名の頻回再発型ネフローゼの男児であり,CyAの使用量は,61.4±8.2ng/ml。初回投与年齢は1.4~5.2歳であった。未熟糸球体の判定は,一般顕微鏡による構造観察と免疫組織学的検討を総合して決定した。CyA療法前腎生検で,全糸球体のうち,23~39%に未熟糸球体の出現が認められた。2年後の評価では,成熟が停滞している未熟糸球体は,依然10~25%残存し,さらに5~17%の糸球体では,未熟糸球体のまま虚脱~硬化に至る像が観察された。残存未熟糸球体と虚脱~硬化糸球体の和は,CyA療法前の未熟糸球体の総数とほぼ一致していた。
    (結論) CyAは,未熟糸球体の生後成熟化障害をきたすことが示唆された。
  • ―特に慢性腎炎モデルマウスを用いたウイルス感染による腎炎増悪機序の解明
    川崎 幸彦
    2008 年21 巻2 号 p. 138-145
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     私達は,腎障害との関連性が注目されているコクサッキーウイルスB4 (CoxB4) をICRマウスやIgAモデルマウス (HIGAマウス) に投与することで,CoxB4の腎炎惹起と腎炎増悪に関する検討を行った。CoxB4をICRマウスに単回静注すると一過性メサンギウム増殖性腎炎が認められた。CoxB4の反復投与では,メサンギウム領域へのIgGやIgA沈着を伴うびまん性メサンギウム増殖性病変が惹起された。一方,HIGAマウスを用いた実験では,CoxB4の頻回投与にてIgA腎症類似の腎病変が早期により高度に出現した。この病態には,CoxB4投与による直接的な内皮細胞障害に加え,メサンギウム異物処理能の低下あるいはCoxB4感染によって放出された各種サイトカインの影響が示唆された。また,ラット培養メサンギウム細胞や単離糸球体に生CoxB4を投与すると,トロンボキサンB2 (TXB2) や活性酸素の産生亢進がみられたことから,これらchemical mediatorもウイルス感染による腎障害の病態に関与していることが推測される。
  • ―学校検尿の広域標準化を目指す取り組み―
    二宮 誠, 伊藤 雄平, 服部 新三郎, 宮田 純一, 阿南 茂啓, 赤司 文廣, 粟田 久多佳, 川波 壽, 木下 勇, 津留 徳, 冨永 ...
    2008 年21 巻2 号 p. 146-156
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     九州沖縄の一次・二次学校検尿異常者に対する検診の6割が学校医主体の個別方式で行われている。特に地方では約7割が個別方式であり,検診委員会や,強陽性者に対する緊急受診システム,一定の判定基準がない地域も多い。これらの問題に対応して九州学校検診協議会では統一マニュアルおよび集計表を2004年に作成した。これらを導入した宮崎県では,三次検診受診率の有意な増加 (p<0.05),診断保留率の有意な減少率 (p<0.001) を認め,特に個別方式で顕著であり,九州沖縄の現状に適したものといえる。現状では,統一集計表を用いた九州全体の集計では,各県の尿所見陽性率に差があり,また,九州沖縄における養護教諭のマニュアルの認知度や,利用率も低かった。統一マニュアルの普及により,各地域で診断基準や分類の標準化が進めば,地方だけでなく,都市部を含めた,より大きなデータベースの構築が可能となり,小児腎疾患の疫学的研究の発展が期待される。
  • 中山 健夫
    2008 年21 巻2 号 p. 157-165
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     根拠に基づく医療 (EBM) の手法を用いた診療ガイドラインに対する関心が医療者のみならず,一般の人々の間でも高まっている。診療ガイドラインの定義は「特定の臨床状況のもとで,医療者と患者の意思決定を支援する目的で,系統的に作成された文書」であるが,その意義は国内では必ずしも適切に理解されていない。本稿では,国内における診療ガイドラインの作成とその活用に関する課題と展望を紹介する。
症例報告
  • 花田 卓也, 林 篤, 河場 康郎, 岡田 晋一, 齊藤 源顕, 神崎 晋
    2008 年21 巻2 号 p. 167-171
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     症例は7歳の男児。学校検尿で尿蛋白を指摘され,精査目的で当院を受診した。高血圧,貧血,および腎機能障害があり,血尿なく蛋白尿は軽微であったが,低張尿であった。超音波検査では両腎のsizeは正常範囲だったが腎実質の輝度は上昇し,皮髄境界に数個の嚢胞が確認された。腎生検所見では大部分の糸球体が硬化し,尿細管の嚢胞状拡張など尿細管間質障害も広範囲であった。ネフロン癆による慢性腎不全と診断し,現在は腹膜透析を施行中である。問診から本児は3歳ごろから排尿回数が多かったことが判明した。本疾患の集団検尿による早期発見は困難であるが,早期診断のためには尿濃縮力障害の鑑別診断として本疾患を積極的に疑い検索することが必要である。
  • 澤井 俊宏, 阪上 彩, 野澤 正寛, 岩井 勝, 野村 康之, 竹内 義博
    2008 年21 巻2 号 p. 172-175
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     症例は11歳,女児。生下時よりEllis-van Creveld症候群 (EvC症候群) と診断され,経過観察されている。平成18年の学校検尿で軽度の尿蛋白を指摘された。近医を受診し,早朝尿蛋白および臥床での尿蛋白が陰性であったことなどから起立性蛋白尿と診断された。翌年の学校検尿でも尿蛋白を指摘され,早朝尿蛋白も軽度陽性となっていたが,この時は精査されなかった。EvC症候群の定期受診の際に高血圧に気付かれ,血液検査で腎機能低下が判明し当科に紹介入院となった。腎生検の結果はネフロン癆に合致する所見であったため,腎機能の回復は困難であると判断した。患児は現在,腹膜透析を実施しながら腎移植待機中である。
  • 橋本 有紀子, 川勝 秀一
    2008 年21 巻2 号 p. 176-181
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     12歳時に学校検尿を契機に発見された腎限局型のANCA関連腎炎の女児例を経験した。急速進行性糸球体腎炎を呈し,ステロイドパルス療法により改善がみられたが2ヵ月後の腸炎に伴う増悪時にはその時の組織所見で硬化性変化が進行していた。経口プレドニゾロン (PSL),ミゾリビン (MZB) を含むカクテル療法を続けていたが,蛋白尿・血尿が持続し,約半年後には,陰性化していたMPO-ANCA値が漸増傾向を示した。4ヵ月間にわたりintravenous pulse cyclophosphamide (IVCY) を施行したがANCA陰性化には至らず,現在も血尿・蛋白尿が持続している。
  • 田中 幸代, 鈴川 純子, 荒木 敦, 今井 雄一郎, 高屋 淳二, 谷内 昇一郎, 蓮井 正史, 金子 一成
    2008 年21 巻2 号 p. 182-187
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     バルプロ酸 (valproate: VPA) によるFanconi症候群 (以下,本症) を呈していた22歳の重症心身障害者が,肺炎を契機に急性腎不全を合併した。本症に急性腎不全を合併した報告は,検索した範囲では見あたらなかった。
     患者は生後8ヵ月からWest症候群の治療としてVPAを投与されており,定期的な血液,尿検査を受けていたが,21歳7ヵ月から低尿酸血症を,21歳9ヵ月から尿糖・蛋白尿を認めた。22歳3ヵ月時,精査で紹介され,汎近位尿細管障害 (腎性尿糖,汎アミノ酸尿,低リン血症,リン酸尿,低尿酸血症) を呈し,本症と診断した。そのため,VPAの中止を試みたが,痙攣が頻発し継続せざるを得なかった。本症と診断してから3ヵ月後に肺炎に罹患した際に急性腎不全にいたったが,保存的療法と抗酸化物質 (ビタミンCおよびビタミンE) の投与のみで回復した。
     一般に特発性腎性低尿酸血症 (多くが尿酸トランスポーター遺伝子・URAT1の変異による) では,運動後急性腎不全を呈することがよく知られている。その病因として,「運動後に産生される活性酸素が抗酸化物質である尿酸の不足により適切に処理されないための活性酸素傷害」が考えられている。
     以上のことを考え合わせると本患者の腎不全の原因として,特発性と同様に,二次的な低尿酸血症が,抗酸化力の低下を来し,急性腎不全のリスクファクターとなった可能性が示唆された。
  • 平野 大志, 原 聡, 西崎 直人, 村上 仁彦, 藤永 周一郎
    2008 年21 巻2 号 p. 188-194
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     腎機能障害が遷延した溶連菌感染後急性糸球体腎炎 (APSGN) の兄弟例を経験した。二人とも父子家庭のため児童養護施設に入所していたが,APSGNに罹患したのは全入所者 (31人) のうち,兄弟のみであった。二人とも臨床症状は典型的なAPSGNであったが,兄は溶連菌感染の証明ができないため,また,弟は腎機能障害の急速な進行のために病初期に腎生検を行った。両者とも光顕では管内増殖性糸球体腎炎を呈し,nephritis-associated plasmin receptor (NAPlr) による染色が陽性でありAPSGNの診断を得た。さらに半月体形成や,Garland typeなどの積極的な治療を要する糸球体病変ではなかったため,保存的治療のみを行い,良好な転機をとった。APSGNは病初期管理が重要であり,急速進行性腎炎を呈する例や慢性腎炎の急性増悪との鑑別に苦慮する例では,腎生検を早期に施行することにより治療方針の決定,その後のフォローアップに有用であると思われた。
  • 今井 雄一郎, 原田 佳明, 高屋 淳二, 金子 一成, 関根 孝司, 五十嵐 隆
    2008 年21 巻2 号 p. 195-198
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     無症候性尿細管性蛋白尿の経過観察中に,当初はみられなかったLowe症候群の症状である低身長,精神運動発達遅延,白内障を呈した3歳男児例を経験した。
     遺伝子解析では,Dent病の主な責任遺伝子であるCLCN5遺伝子には異常を認めず,Lowe症候群の責任遺伝子であるOCRL1遺伝子にナンセンス変異を認め,Lowe症候群と診断した。
     一般に無症候性尿細管性蛋白尿や高カルシウム尿症を呈している男児において,その他の腎機能障害や腎外症状を認めない場合,通常,Dent病が最も疑われる。しかし,Dent病の主な責任遺伝子であるCLCN5に変異を認めない場合,2型Dent病 (OCRL1遺伝子に変異を認めながらDent病の臨床像を呈する例) や遅発型Lowe症候群 (無症候性尿細管性蛋白尿の発見がLowe症候群の症状出現よりも早い例) の可能性を念頭において,OCRL1遺伝子解析も行うべきであると思われた。
  • 植村 篤実, 平松 美佐子, 秋田 泰之
    2008 年21 巻2 号 p. 199-202
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     症例は9歳女児。腎盂腎炎に遺尿症を伴っており,精査の結果,左尿管瘤と左低形成腎が判明した。膀胱尿管逆流症は認められなかった。残尿が認められ,膀胱内圧に比して尿意が微弱であった。
     不安定膀胱としてdistigmine bromideとprazosin hydrochlorideを使用したところ昼間尿失禁は消失した。Break through infectionを起こしたためcefaclorの予防内服を追加した。その後,尿路感染症の再発はなかったが夜尿が持続した。膀胱鏡検査により尿道狭窄が判明し,尿道切開術を施行した。また,左尿管瘤は膀胱頸部に異所性に開口していた。以後,薬剤投与を中止したが尿路感染症と夜尿は消失した。
     治療抵抗性の遺尿症に対して,泌尿生殖器系異常が存在する場合には,異常の程度の悪化や他の異常の合併を疑って膀胱鏡などによる原因検索が必要な場合があると考えられる。
  • 荻野 大助, 秋岡 祐子, 近本 裕子, 久野 正貴, 大森 多恵, 松村 英樹, 中倉 兵庫, 松永 明, 服部 元史
    2008 年21 巻2 号 p. 203-207
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     生体腎移植後のFSGS再発で著明なcellular lesions (CL) を認め,移植後早期に移植腎機能が廃絶した1女児例を経験した。患者血漿中の液性因子とCLとの関係や移植腎機能予後との関連性について検討したので報告する。
     培養ポドサイト (Mundel細胞) に患者血漿を添加してintegrin-linked kinase (ILK) 活性の経時的変化,ビンキュリン染色による形態変化,培養皿からの剥離について検討した。その結果,ILK活性の上昇,ポドサイト接着像の乱れ,そして一部のポドサイトの培養皿からの剥離を認めた。本患者血漿中に,ポドサイトのILK活性を上昇させる何らかの液性毒性因子が存在する可能性が示され,ILK活性上昇の結果,ポドサイトの糸球体基底膜からの剥離やCLが観察され,その後,糸球体硬化が進行して早期に移植腎機能が廃絶したものと推察された。
  • ―3年間の経過―
    鈴木 俊明, 池住 洋平, 唐澤 環, 斉藤 和英, 高橋 公太, 内山 聖
    2008 年21 巻2 号 p. 208-211
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     ABO不適合腎移植は,一般的に脾臓摘出が必須と考えられてきたが,小児においてはデメリットが大きい。今回われわれは,ABO不適合腎移植を希望した12歳男児に対し,移植4週間前からMMF,MPによる脱感作療法を開始し,12日前と2日前にrituximabの投与を加え脾臓摘出の回避を試みた。重篤な副作用はなく,血液型抗体の再上昇を認めず,移植後3年の時点で経過は良好である。
     同じプロトコルで行った成人例に比べるとB細胞の回復は早い傾向にあったが,免疫学的順応が得られる数週間の抑制を目的としている観点からは,まだ過剰抑制の可能性がある。今後は小児における必要最低限のRituximab投与方法の検討が必要と思われる。
  • 中野 万智子, 柳田 英彦, 杉本 圭相, 藤田 真輔, 岡田 満, 竹村 司
    2008 年21 巻2 号 p. 212-216
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     今回われわれは,新規のPAX2遺伝子異常を有し,精神発育遅滞を伴った腎コロボーマ症候群の1例を経験した。13歳時に,すでに軽度な腎機能低下と中等度の蛋白尿を認めていた。腎生検では,メサンギウム基質の増加と糸球体虚脱,糸球体周囲の繊維化,尿細管基底膜の肥厚や萎縮,間質の細胞浸潤と繊維化を認め,腎コロボーマ症候群に合致する所見であった。両眼ともにコロボーマを認めた。PAX2遺伝子解析を実施したところ,エクソン3の130番目のプロリンがヒスチジンに変化する新規のヘテロの変異を認めた。観察開始後,約5年間で腎機能はほぼ廃絶状態に達しており,最近,血液透析に移行している。
  • 須賀 健一, 近藤 秀治, 松浦 里, 高松 昌徳, 漆原 真樹, 渡辺 典子, 中川 竜二, 西條 隆彦, 高橋 正幸, 香美 祥二
    2008 年21 巻2 号 p. 217-222
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
     大部分の両側多嚢胞性異形成腎 (MCDK) はPotter症候群を呈し,周産期に致死的経過をとる。周産期死亡を免れ,現在腹膜透析にて管理しているまれな両側MCDKの1例を報告する。
     母親は糖尿病のためインスリン治療をしていたが,血糖のコントロールが不良であった。在胎18週に胎児エコーで両腎に多数の嚢胞を認めたが,羊水量は正常であった。在胎33週に羊水過少を来し,帝王切開で出生した。腹部エコー,MRIで両側MCDKと診断した。左腎の一部に腎実質を認め,DMSAシンチグラフィーで左腎下極に取り込みを認めたため,左腎はsegmental MCDKと診断した。腎機能が徐々に悪化し,生後4ヵ月から腹膜透析を導入した。1歳2ヵ月で成長・発達は正常範囲内にある。本例では左腎下極に残腎機能を有していたために周産期死亡を免れえた。母親に糖尿病があり胎内での高血糖あるいはTCF2遺伝子等の異常が発症に関与した可能性があり,遺伝子検索を含めたさらなる検討を要すると思われた。
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