1992 年 5 巻 1 号 p. 83-88
慢性甲状腺炎や甲状腺機能亢進症において,甲状腺成分を抗原とする免疫複合体が腎糸球体に沈着し,膜性腎症の合併をみることがある。一方,ヒトの糸球体基底膜の厚さは年令により多少の差異はあるものの,成人で200-400nm (平均300nm) といわれており,糖尿病性腎症において糸球体基底膜が肥厚することは有名である。今回,血尿と蛋白尿を認めた9歳の女児で,甲状腺機能亢進症 (いわゆるバセドー病) に高Ca尿症 (Ca制限・負荷テストでは吸収性高Ca尿症と診断) を伴い,腎生検を施行したところ,IgAの沈着と糸球体基底膜のびまん性肥厚 (約700nm) を認めた症例を経験した。極めて珍しい症例と考えられたので,報告するとともに,病態の仮設を提唱した。