生理心理学と精神生理学
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視線パターンからみた聴覚障害児における指文字の読み取り方略
田原 敬渡辺 みさき井口 亜希子勝二 博亮
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論文ID: 2312si

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抄録

本研究では,聴覚障害児を対象に指文字と口形を併用した状況下での指文字単語の読み取り課題を実施し,課題中の視線を計測することで,指文字単語の読み取り方略を検討した。また,指文字の呈示位置と口との距離及び単語の意味性を操作することで視線パターンに変化がみられるのかという点も併せて検討した。その結果,口と離れた位置で指文字が呈示された条件下では,視線が手指に集中することが明らかとなった。一方で,指文字が口に近い位置で呈示される条件下では手指と顔を同程度の割合で注視する特徴がみられ,手指と口形等の非手指情報に適宜視線を移動させ,複数の手がかりを統合しながら指文字を読み取っていると考えられた。さらに,同条件下では,障害の程度が重いほど顔をよく注視する傾向が明らかとなった。聴力レベルの高い対象者は,周辺視にて手指情報を捉えることが可能であるとされるため,中心視にて口形などの非手指情報を捉えつつ,周辺視にて指文字を識別するという方略を用いたと推察された。

聴覚障害者が用いるコミュニケーション手段のひとつとして手話が挙げられる。手話を用いてコミュニケーションを行う際は,手話単語を並べるのみでなく,「指文字」や「指差し」に加え,表情,口形,うなずき,視線といった「非手指動作」等の様々な要素を組み合わせて会話を行う(市川ら,2005)。本稿ではその中の指文字と非手指動作に着目する。

指文字は視覚的コミュニケーション手段のひとつであり,日本語の仮名文字に対応した,手指で表される記号である。手の伸長あるいは屈曲する指の種類や本数,屈曲の角度のほか,手掌の向きや動きを組み合わせることによって,清音46文字を表出し分ける。さらに,清音のほかに濁音・半濁音・促音・拗音・長音で各々の記号が定められており,濁音の場合は横方向(体の外側)に手を移動させる等,これらの記号を清音46文字に付加して表現を行う(平,1986)。指文字の手形を順に表出することで音声言語の単語を視覚的に綴ることができる。手話と音声言語は異なる言語であるため,双方で対応する語彙がない場合も少なくない。加えて,固有名詞に代表されるように,手話のみでは表現が難しい事柄が多く存在するため,手話を用いたコミュニケーション場面では指文字によって単語が綴られる機会が多く見られる。さらに,聴覚障害児への教育場面では,単なるコミュニケーション手段としてのみではなく,日本語の獲得を促すことを目的として指文字が意図的に用いられる(井口ら,2018)。実際に,手話を併用する聾学校小学部の授業を分析した阿部(2013)は,助詞を呈示する際や,手話で呈示した語句を日本語として呈示する際,動詞の活用形を呈示する際や,漢字の読み方を呈示する際などに,指文字が意図的に活用されることを報告している。

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© 2023 日本生理心理学会
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