論文ID: 2502br
近年,デジタルオーディオ技術の発展により,音が録音された空間を忠実に再現するバイノーラル録音・再生技術への関心が高まっている。先行研究では,視覚的認知課題を行っているときにバイノーラル音が提示された場合,主観的にはモノラル音よりも奥行きがあり,広がりがあり,柔らかく,違和感が小さいと評価された。しかし,生理反応には対応する差はみられなかった。本研究では,バイノーラル音に注意を向けて聞くことが,生理反応に影響を及ぼすかどうかを検討した。35名の大学生・大学院生が,海岸の波音をバイノーラル録音した40秒間の音とそれをモノラル化した音を,ランダム順で8回ずつ聴取した。聴取時の脳波,心拍数,皮膚コンダクタンス水準を測定した。主観評定では,バイノーラル音はモノラル音よりも,響きがよく,奥行きがあり,広がりがあり,柔らかいと評価された。さらに,海の風景を鮮明に思い浮かべることができ,音が聞こえている環境にいるように感じたと評価された。しかし,生理反応には条件間で有意差が認められなかった。これらの結果から,バイノーラル音の知覚的性質は測定可能な脳波・自律神経系活動の変化を生じさせるとは限らないことが示唆された。