抄録
本研究では, 弱い時空間的表象が弱い後続刺激によってオブジェクトレベルでマスクされるオブジェクト置き換えマスキング (OSM) の脳内メカニズムを, 反復経頭蓋磁気刺激 (rTMS) を用いて検討した.OSMは, 先行ターゲットと後続マスクが同一オブジェクトであると知覚される際のオブジェクトレベル表象内の情報更新過程を通じて生じると考えられている.ターゲットからマスクへの運動信号がオブジェクト連続性を媒介していると想定して, V5/MT+をrTMSのターゲット部位とした.V5/MT+に対してrTMSを施行した後にOSMが減少した.しかしながら, 比較のためのコントロール刺激 (Sham刺激) を行った後にはOSM量に変化は認められなかった.以上の結果より, OSMの生起にはV5/MT+の正常な機能が関与していることが示唆され, V5/MT+に対するrTMSは知覚されるオブジェクト連続性を阻害することでOSMを減少させたと結論づけた.