抄録
近年,マインドフルネスに対する社会的認知度が世界規模で高まり,臨床心理学,医療,教育,福祉,ビジネスなど多方面にわたる領域でマインドフルネスが応用されるようになっている。一方で,現在主流のマインドフルネスによるアプローチは,世俗化,個人化,商品化が進み,さまざまな有害事象を生み出す温床ともなっていることが指摘されている。本論文ではまず,心理学に加えて仏教学や社会学なども含む学際的な視点から,マインドフルネスの多面性を分析する。具体的には,マインドフルネスの射程を,手段化されたマインドフルネスから,倫理性や慈悲などをも包摂し,個人の内的変容から社会の外的変容を可能にするマインドフルネスへと拡げていく必要性があることを論じる。そして,マインドフルネスを現代社会に即した形で西洋社会に広め,「行動する仏教 (Engaged Buddhism)」の流れを作ったベトナムの禅僧であるティク・ナット・ハンの基本思想について考察する。慈悲や非暴力に基づくマインドフルネスを普及させたティク・ナット・ハンの視点や,仏典の解釈に再帰することで,マインドフルネスが持つ本来の意義を確認し,これからの時代に資するマインドフルネスの概念的枠組みの拡張や展望について論じる。