論文ID: JJPTF_2023-S02
自己の身体や外部物体を位置・方向づけること(以下,空間定位)は,意図する行為を達成する上で必要不可欠である。空間定位には,重力中心空間定位(重力軸に対する身体や外部物体の方向推定)と自己中心空間定位(身体部位を基準とした外部物体の方向推定)の2つが存在する。著者らは,自己中心空間定位に着目し,身体傾斜を用いた実験を通してその特性と神経基盤を検証してきた。一連の実験結果より,身体が傾いた状況下では身体軸を基準とした物体の傾き推定に歪みが生じること,そしてその現象は,主観的な身体の傾き感覚と強く関連することが明らかとなった。この知見は,自己と物体の空間関係を推定する際,重力軸を参照するというヒトの特性を示唆している。さらに,脳形態解析を用いた研究ならびに脳損傷患者を対象とした神経心理学研究を通じて,その特性には右後頭側頭領域が重要な役割を果たしている可能性が示された。これらの知見は,重力環境下におけるヒト空間知覚メカニズムの基礎的な理解の促進に貢献する。