2022 年 23 巻 1 号 p. 55-64
日本の精神科医療は急性期中心に変わりつつあるが,今なお数十年に及ぶ超長期入院の患者がいる事実はあまり顧みられることがない.本研究の目的は,精神科病棟での研究者と超長期入院患者とのかかわりの中で捉えられた患者たちの体験世界を描き出し,その特徴とかかわりの意味について考察することである.
研究者は身分と目的を明らかにした上で,慢性期女性開放病棟で週1回,合計50回,日勤帯にフィールドワークを行った.研究参加者は精神科病院に通算40年以上入院し,研究参加に同意した入院患者4名であった.
結果として,研究参加者が自身の過去を語ることは容易ではなく,語られたとしても記憶は断片化し,時間的・人間的なつながりや意味が失われてしまっており,彼女たちが過去にトラウマを体験していることが示唆された.考察では,トラウマをもつ患者とのやりとりの特徴や,語りを聞くことの難しさ,回復の可能性を検討した.