2023 年 24 巻 1 号 p. 1-10
本研究は,看護師で,全身性エリテマトーデス(SLE)を患う一人の若年女性(Fさん)の病い経験を,本人の経験に即した形で記述し,分析する.そうした作業に基づき,慢性の病いを生きるとはどのようなことなのか,その一端を内在的に明らかにするとともに,そうした経験を規定している要因を明らかにすることが本研究の目的である.インタビューで得られたFさんの病い経験の丁寧な記述を通してみえてきたのは,Fさんにとって病いをめぐる《わからなさ》と《わかってもらえなさ》がその経験において重要な位置を占めているということであった.Fさんは病いをめぐるわからなさに対し,さまざまな情報を集めつつ,自らの体験を通じて獲得された知識をもとに手探りの対処を試みていた.また,本稿では,病いをめぐるわかってもらえなさについて,看護師に英雄性を求める文化や,患者は自分の病気や体調について周囲がわかるように説明できるはずだという,健康な者たちが持っている前提が関わっていることを指摘した.