日本鼻科学会会誌
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原著
経蝶形骨洞手術後に遅発性髄液鼻漏を生じた2例
西田 直哉高橋 宏尚高木 大樹能田 淳平羽藤 直人
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2017 年 56 巻 2 号 p. 119-124

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抄録

髄液鼻漏は経蝶形骨洞手術(transsphenoidal surgery, TSS)の重要な合併症の一つで,その頻度は1.5–40%と報告されている。通常,髄液鼻漏は術後数日以内に発生し,遅発性に髄液鼻漏が発生した報告は少ない。今回我々はTSS後,遅発性に髄液鼻漏を生じ,鼻中隔粘膜弁を用いて閉鎖術を行った2例を経験したので報告する。

症例1は59歳,女性で,頭蓋内・海綿静脈洞に浸潤する下垂体腺腫に対してTSSによる摘出術を行い,残存腫瘍に対して放射線治療を計50Gy行った。術後15か月後に髄液鼻漏発症し,脂肪と筋膜による閉鎖術施行されたが,その4か月後髄液鼻漏再発し,鼻中隔粘膜弁を用いた多重閉鎖法を行い,その後再発は認めていない。

症例2は61歳女性で,他院での頭部MRIにてトルコ鞍部腫瘍を指摘され,TSSによる生検を施行したところ,肺腺癌の下垂体転移と診断された。化学療法を行うも腫瘍増大傾向を認めたため,同部位にガンマナイフ治療施行され,その後化学療法継続していた。TSS後17か月目に意識消失発作あり,近医に救急搬送され,頭部CTにて気脳症を認め当院へ転院となった。全身麻酔下に鼻中隔粘膜弁を用いた多重閉鎖法による髄液鼻漏閉鎖術を行った。その後髄液鼻漏の再発はなかったが,病状の進行により,術後1年11か月後永眠された。

今回の症例のように,TSS術後遅発性に髄液鼻漏が生じた例では,放射線治療の既往など,閉鎖材料が生着しにくい要因があるため,鼻中隔粘膜弁を用いた閉鎖方法が非常に有用であると考えられた。

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