日本鼻科学会会誌
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原著
蝶形骨洞炎術後に発症したAntidiuretic hormone不適合分泌症候群例
武田 淳雄矢富 正徳小川 恭生野本 剛輝勝部 泰彰岩澤 敬縣 愛弓田中 英基塚原 清彰
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キーワード: SIADH, 副鼻腔炎, ESS術後, 低Na血症
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2017 年 56 巻 2 号 p. 134-139

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抄録

ADH不適合分泌症候群(以下SIADH)は血漿浸透圧の低下にも拘らず非生理的なADH分泌が続く状態である。原因に脳外科手術後,頭蓋内疾患,肺疾患,薬剤性がある。今回蝶形骨洞炎術後に発症したSIADHの1例を経験したため報告する。症例は33歳男性,頭痛を主訴に近医を受診した。頭部MRIにて右蝶形骨洞炎が疑われ,症状出現から6日後当科を受診となった。CT,MRIにて右蝶形骨洞炎を認めた。髄膜炎の合併を疑うも腰椎穿刺で否定され同日当科入院となった。保存的加療に抵抗性で,入院4日目に内視鏡下副鼻腔手術を施行した。術中蝶形骨洞内は膿汁が充満し,トルコ鞍底骨に小穿孔を認めた。髄液漏は認めないと判断し,遊離粘膜弁で穿孔部を閉鎖し手術を終了した。術後3日目に頭痛が再出現し,採血でNa 126mEq/Lと低Na血症を認めた。点滴補正を開始したが,術後4日目にも頭痛増悪あり,嘔気も出現し,Na 119mEq/Lと更なる低下を認めた。SIADHと診断し,点滴補正の強化と飲水制限を開始した。経時的にNaは上昇し,臨床症状も改善した。術後11日目に退院となった。本症例はトルコ鞍底骨の小穿孔から下垂体へ手術侵襲がかかり,術後SIADHを発症したと推測している。本経験から蝶形骨洞に手術操作を加える際はSIADHを含む下垂体ホルモン異常による術後合併症にも注意を払うべきであると考える。

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