日本農村医学会雑誌
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症例報告
悪性リンパ腫に対する化学療法中に遅延発育型螺旋菌を検出した1例
佐野 尚子村田 哲也別所 裕二齋藤 麻菜美伊藤 竜吾濱田 正行
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2015 年 63 巻 5 号 p. 764-771

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抄録

 遅延発育型の菌は, 数日の血液培養で陽性シグナルを認めても培養液のグラム染色で見落とされやすく, 偽陽性として報告されてしまうことがある。今回我々は悪性リンパ腫に対する化学療法中の患者から遅延発育型螺旋菌が検出された症例を経験したので報告する。本症例では, 度重なる発熱に対して血液培養が施行され, 血液培養装置BACTEC9240 (Becton Dickinson, 以下BD) でボトル内CO2濃度上昇による陽性シグナルが出たものの培養液のグラム染色では菌が認められず, 偽陽性として報告されることが続いた。培養時間を延長することにより漸く検出された菌は, グラム染色上Helicobacter属を疑う螺旋菌で, polymerase chain reaction (以下PCR) 法により増幅した16S rRNAをコードする遺伝子をsequence解析し, 得られた配列をBasic Local Alignment Search Tool (以下BLAST) による相同性検索にかけたところ最も高い相同性 (98.08%) を認めたのはHelicobacter canadensisであった。H. canadensisは, 近年下痢症患者から分離された腸管感染性の病原菌の1つで, 人畜共通感染症の危険性が指摘されており, 免疫不全患者での報告例も少なくないことから注意が必要である。血液培養で偽陽性が続く場合, 遅延発育型の菌も疑って培養時間を長くとるなど培養条件を変更してみることが大切である。

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© 2015 一般社団法人 日本農村医学会
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