抄録
本研究は,総務省が指定する過疎地域の8市町村で暮らす,80歳以上の一人暮らし男性の心理的葛藤を明らかにすることを目的とした。調査対象者は,日常生活が自立している34人に半構造化面接を行なった。テキストマイニングにより分析した結果,消滅危惧集落の一人暮らし男性高齢者の心理的葛藤は,【話し相手がいない寂しさ】はあるが【家を離れたくない】と思っていた。80歳を超えて【身体機能の衰えの進行】を自覚しており【歩けなくなったら終わり】と不安があった。生活を継続するには,車の運転が必需であり【運転継続の葛藤】と【買い物へ行けなくなる不安】であった。
消滅危惧集落で暮らす高齢者は,地域で培ってきた人間関係や郷土への愛着があり,最期まで生まれ育った家で暮らすことを望んでいた。同時に人間関係の希薄化に伴う寂しさ,身体的衰えによる自己不全感,地域衰退への危機感の間で葛藤していた。一方で彼らを支える1つの要因は地域を守る使命感である。高齢者が地域との連帯感や地域への貢献を実感できるような地域ケアシステムの構築の必要性が示唆される。