抄録
〔背景と目的〕近年,腹腔鏡手術の増加に伴い,手術体位が原因と考えられる腕神経叢障害の報告が散見されている。当院においても同様の腕神経叢障害症例を3例経験した為,現在は固定法を改良し,神経障害確認用紙を作成してチーム内で統一した観察と定期的除圧を行なっている。現行の対策が有効であるかを検証した。
〔対象と方法〕対象は全身麻酔下に頭低位砕石位で腹腔鏡手術を受けた患者20名。頭低位による右肩部にかかる体圧を30分毎に測定し,用手的除圧前後の変化を比較検討した。また,手術室看護師10名による実地検証も行なった。
〔結果〕手術症例では角度に比例した体圧値の上昇はなかった。除圧前後を比較すると体圧は頭低位後30分,60分,120分に除圧後有意に減少した。
BMI(body mass index)と体圧の関係においては,30分後でのみ有意な相関関係がみられた(相関係数0.474,p=0.035)。看護師での実地検証では,右肩平均体圧を測定した結果,頭低位角度や右側ローテーション角度が大きい時に右肩平均体圧は上昇した。アンケートからは頭低位に右側ローテーションがかかると体幹のズレ感や頭頸部の牽引感等を訴える人数が増加した。BMI別のアンケートでは,BMI 22以上例で比較的強い症状がみられた。
〔結論〕現行の体位固定方法での体圧分散や神経障害確認用紙を用いた観察および経時的除圧プログラムにより術中を通して体圧上昇は認めず,腕神経叢神経障害予防に有効であった。