2002 年 50 巻 5 号 p. 708-714
症例は73歳男性。56歳時, 心電図にて左室高電位, 巨大陰性T (GNT) を認めたため心臓カテーテル検査を行い, スペード型左室変形から心尖部肥大型心筋症 (APH) と診断されたが, 6か月で治療を中断していた。2000年3月31日, 非持続性心室頻拍にて当科に入院した。心電図では17年前よりもR波が減高し, GNTが消失, 胸部誘導でST上昇, QRS幅が延長していた。左室造影で心室中部の閉塞 (収縮期圧較差56mmHg) と心尖部心室瘤を認めた。冠動脈に器質狭窄なし。心エコーで拡張早期に心尖部から左室流出路方向に向かう奇異性血流を認めた。βプロッカー, アミオダロンで心室頻拍は消失したが, 1か月後心不全のため再入院した。心尖部心室瘤, 心不全などを生じるAPHの特徴として, 心電図でのR波・陰性Tの減高, QRS幅増大, ST上昇, 心エコードップラーでの左室拡張早期奇異性血流 (diastolic paradoxic flow) などに留意すべきである。