抄録
外傷性脳損傷の中でも「びまん性軸索損傷」は受傷時に意識障害が遷延化するにもかかわらず画像診断(CT・MRI)で明らかな器質的異常が検出されない病態であるが,後遺症の高次脳機能障害との関連性についての報告は少ない.脳波は神経細胞レベルでの脳機能を電気生理学的に評価できる検査法であり急性期の意識障害の程度を評価することが可能である.これらの症例の慢性期における脳波所見や臨床症状との関連性の報告は少ない.今回われわれは外傷性脳損傷の中でも画像診断(CT・MRI)で明らかな局在性異常所見に乏しい外傷性脳損傷患者15例を対象として,慢性期(受傷から平均半年以上の経過における)の脳波所見を臨床経過・高次脳機能障害との関連性から検討し,同時に電気生理学的検査法である脳波がどの程度この病態を捉えることができるかを検討した.脳波正常群の方が異常群より有意に受傷時の昏睡期間が短く重度の知的機能低下を示した3例には局在性徐波焦点などの脳波異常が認められた.それ以外の症例では脳波正常群と異常群との間の高次脳機能障害に有意差はなかった.脳波正常群のα波の周波数が異常群より有意に速く,受傷時の昏睡期間と関連した(p<0.01).脳波異常と高次脳機能障害との間には特異的な関連性はなかったが,慢性期に正常脳波所見を示しても,臨床的には重度の認知障害が後遺症として残っている場合があった.外傷性脳損傷の慢性期における脳波所見の特徴を検討することにより脳機能を評価し,臨床における有用性を示した.