嚥下運動誘発には脳幹延髄の神経回路を介する反射性のものと随意性嚥下を含む中枢性のものがある.前者の主たる受容野は,上喉頭神経で支配される下咽頭から上喉頭領域であり,多くの刺激やそれに応答する受容体が関連していると考えられている.その中で最もよく知られているのは,C線維や一部のAδ線維に発現する温度感受性受容体transient receptor potential(TRP)チャネルである.ことに温刺激受容体であるTRPV1や,冷刺激受容体であるTRPM8とTRPA1は,嚥下反射誘発・促進にかかわるという多くの臨床報告があるものの,その十分な根拠を示す基礎研究データは提供されていない.TRPチャネルはポリモーダル受容体である.TRPV1が温度のみならず酸やカプサイシンにも応答する性質を用いて,嚥下障害の臨床に用いられる炭酸水嚥下の末梢受容機構などの解明が行われ,acid sensing ion channel(ASIC)3などの関与が考えられている.機械刺激に関しては,上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)が候補受容体とされているが,全容解明には至っていない.