近年,医療へのロボット技術の応用が期待されており,リハビリテーション医学領域においての活用も進んでいる.本稿では,まずロボットの定義とその分類について述べる.次に,リハビリテーションロボットについて,支援ロボットごとの要点について述べる.最後に,練習支援ロボットの整理と近年の潮流について述べる.今後,研究開発,製品化および社会実装を促進していくためには,リハビリテーションロボットの作用機序の明確化,併せてコスト低減と費用対効果の検討が必要になると考えられる.
神経難病は進行するだけで治療やリハビリテーションは不可能と考えられてきたため,歩行などの運動機能回復のための治療法の研究は十分行われてこなかった.この10年のHAL医療用下肢タイプ(Cyberdyne Inc.製)の医師主導治験(NCY-3001,NCY-2001試験)の成功と疾患修飾薬の実用化の中で,ニューロリハビリテーションの概念は神経筋疾患やHTLV-1関連脊髄症,遺伝性痙性対麻痺などの神経難病に対する科学的な機能再生治療として整理され,HAL医療用下肢タイプは実用期に入った.HALによる歩行運動治療の原理および基本的なエビデンスについて解説し,今後の複合療法の可能性について展望する.
装着型サイボーグHAL®を用いたリハビリテーション治療は神経筋疾患患者に対する歩行能力改善効果があることが示され,その後運動器疾患への応用が進んでいる.現在まで下肢タイプ,単関節タイプ,腰タイプが脊髄損傷,脊髄疾患術後C5麻痺,腕神経叢損傷,人工膝関節全置換術後,膝前十字靱帯再建術後,ロコモティブシンドロームのリハビリテーション治療として使用され,その臨床成績が報告されている.
高齢化社会は日本を筆頭に世界的に進み,働く高齢者が増えエイジフリーな職場環境が求められ,医療現場でもその一策として上肢訓練支援ロボットの開発が進み,最近は手指型が注目されている.機能訓練を十分量,反復して安全に行うことができ,作業療法の併用療法として効果のエビデンスは蓄積され,巧緻運動訓練も一部可能となった.治療として日本で利用できる環境は整いつつあるが,介入時間に制約がある中で簡便性,操作性,費用対効果の問題は避けて通れない.ロボットを使用しながら改良し進化を続ける時期であり,将来的には機能改善を巧緻性につなげる役割も期待され,上肢リハビリテーションの大きなブレイクスルーが得られる可能性もある.
脳卒中後の上肢麻痺は対象者のquality of lifeを下げる後遺症の1つといわれている.近年,多くのリハビリテーションアプローチが開発され,後遺症を改善するための試行がなされている.そのアプローチの1つにロボット療法がある.ロボット療法は,臨床研究において,多くのランダム化比較試験やそれらをまとめたシステマティックレビューおよびメタアナリシスによって,効果を調査されており,世界中でスタンダードリハビリテーションの1つとして取り扱われている.近年,日本でも多くのロボットが開発され,リハビリテーション場面に活かされている.本稿では,脳卒中後に生じる上肢麻痺に対する本邦のロボット療法の現状について,解説を行う.
上肢ロボット療法のうち,arm support system(上肢重量免荷型ロボットシステム)に該当する装置(旧名,上肢リハビリ装置CoCoroe AR2)の使用手順を提案する.この装置は日常生活で物を操作する際に必要な「リーチング動作」を強化する上肢ロボット装置である.提案する使用手順の目標は自動運動で到達可能なリーチング範囲の改善であり,リーチング能力(運動麻痺の程度)に分けて解説する.また代償動作(体幹の前傾や肩甲帯の挙上,体幹側屈,肩関節の過度な外転)を軽減する訓練方法も合わせて解説する.
われわれ人間は,五感によって,この現実世界を知覚している.中でも,触覚は能動的に外部の状況を変え得る唯一の感覚であり,聴覚と視覚に次ぐ第3の感覚技術として今後の実用化が期待されている.本稿では,動作の伝送・記録・再現を可能にする力触覚技術「リアルハプティクス」の概要について紹介をした後,力情報のリハビリテーション領域,特に生活空間設計における活用の可能性について述べる.
はじめに:手の遠位横アーチにおいて,どれくらいの可動域があるのか,利き手や非利き手,性や年齢などによる違いがあるのか明確に示されていない.
目的:本研究は,手の遠位横アーチの可動域において,利き手・非利き手,性,年齢での違いについて明らかにすることを目的とした.
対象:20~60代の健常成人118名(男性52名,女性66名)の両手を対象とした.
方法:ゴニオメーターを用いて,自動・他動で形成した遠位横アーチの各角度(母指成分,環指成分,小指成分)を測定し,これらの合計角度を遠位横アーチ角度とし,比較分析を行った.
結果:自動遠位横アーチは利き手(135.4±10.3°)で有意に大きく,また他動遠位横アーチでも利き手(168.9±12.1°)で大きかった.性別比較においては,自動・他動ともに利き手・非利き手で有意な違いはなかった.しかし,環指成分では女性で有意に可動域が大きかった.年代別では,若年層に比べ60代で,利き手・非利き手ともに自動・他動での遠位横アーチは有意に低下した.また,他動の利き手や小指成分では,30~40代でも低下を示し,年齢が増すと低下する傾向が示された.
まとめ:手の遠位横アーチへのリハビリテーションでは,利き手・非利き手や性,年齢を考慮した介入の必要性が示唆された.
目的:脊髄損傷者(SCI)は上下肢に加えて,体幹にも重度の機能障害を生じ,臨床場面では重要な視点となる.SCIに特化した体幹機能評価の確立は課題となっているが,近年では,SCIに国際的な体幹機能評価法としてClinical Trunk Control Test(CTCT)が使用され,良好な信頼性や妥当性が示されている.一方で,本邦において脊髄損傷者に特化した体幹機能評価法は数が乏しい.本研究は,日本語版CTCT(Japanese Version CTCT:CTCT-J)を作成し,その信頼性を検証することを目的としている.
方法:CTCT-Jの作成にあたっては,ダブルバックトランスレーションの形式を用いた.評価者間信頼性は,CTCT-Jの合計点と各項目の級内相関係数(intraclass correlation coefficients:ICC)と各サブテストのweighted kappa係数を算出した.内的一貫性の検証は,CTCT-J合計点および各項目のCronbachのα係数を算出した.
結果:対象は回復期,慢性期のSCIの12名.対象者の属性は,頚髄損傷9名,胸髄損傷3名.男性10名,女性2名.平均年齢:51.9±17.8歳.評価者間信頼性の検証について,ICCは,0.995~1.000(p<0.05)の結果を示した.各サブテストのweighted kappa係数は,0.756~1.000(p<0.05)となった.内的一貫性の検証では,すべての項目のCronbachのα係数は0.995(p<0.05)となった.
結論:本研究では,ダブルバックトランスレーションによってCTCT-Jを作成し,その信頼性について検証した.結果として,良好な評価者間信頼性,内的一貫性が認められ,本邦における適応可能性が示された.