2008 年 69 巻 11 号 p. 2931-2935
症例は83歳,男性.Stage IのS状結腸癌手術の11年後に呼吸困難を主訴に近医を受診した.胸部X線写真でうっ血性心不全と診断され,心電図と心臓超音波検査から拡張型心筋症が疑われた.貧血があり,消化管精査を行った.直腸S状部に2型腫瘍があり,生検で腺癌と診断された.心不全が改善したため,全身麻酔下にHartmann手術を行った.腫瘍はSS,N1,H0,P0,M0,Stage IIIa,低分化腺癌であった.術中はホスホジエステラーゼIII阻害薬,抗不整脈薬を使用し,術後は輸液量の制限と利尿剤投与を行い,心不全の増悪なく経過した.術後に施行した心臓核医学検査で虚血性心筋症が疑われた.薬剤治療で心症状が安定し,術後第60病日に退院した.術後5年を経過し,心不全の増悪,大腸癌の再発を認めていない.心筋症による心不全を呈する症例でも,心不全がコントロールされていれば,術前評価と周術期管理により,全身麻酔下の大腸癌根治術が可能と思われた.