2009 年 70 巻 2 号 p. 444-449
症例は80歳,男性.自宅の庭で転倒し,受傷5日後に食欲低下を主訴に当院を受診した.腹部単純CT検査でMorrison窩・横行結腸腹側に含気のある軟部影を腸管外に認め,下部消化管の微小穿孔に続発した腹腔内膿瘍の疑いで入院となった.保存的に経過観察し,注腸検査で結腸肝彎曲付近および横行結腸中央部に造影剤の腸管外漏出を認めた.その後注腸検査で造影剤の腸管外漏出がないことを確認した上で,経口摂取を開始し,受傷後44日目に軽快退院となった.現在外来で経過観察中であるが,再燃の兆候は認められていない.下部消化管穿孔は致死的経過をたどる可能性が高いとされ,原則的には緊急手術の適応である.しかし,中には保存的治療により手術侵襲を回避できる症例も存在し,急性腹症を診療する上で念頭に置くべきと考えられた.