日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
70 巻, 2 号
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原著
  • 南 一仁, 亀田 彰, 野宗 義博, 大原 正裕, 宮原 栄治
    2009 年 70 巻 2 号 p. 345-353
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    胃癌に対する腹腔鏡下手術は有望な低侵襲手術として増加の一途をたどっているが,腹腔鏡下リンパ節郭清は,経験が少ない施設においては安全性・根治性に問題がある可能性がある.この解決には腹腔鏡下手術の利点・欠点を明確にすることが重要である.腹腔鏡下手術を施行している施設を対象とし,腹腔鏡下リンパ節郭清の利点・欠点をアンケート調査した.返答のあった28施設のうち20施設で腹腔鏡下胃悪性腫瘍手術が施行されていた.この手術経験総数が豊富な施設と少ない施設は,それぞれ10施設ずつ認めた.経験数の多寡に関わらず,鏡視下の利点は拡大視および開腹では得られない視野であった.経験の少ない施設では,術者の技術不足,助手の視野展開の悪さ,スコーピストの技術不足によって良好な視野が得られず,視野範囲制限が出現するという欠点が認められた.この欠点克服には,個人の技術向上以上にチームとしての技術向上が重要であると考えられる.
  • 徳永 行彦, 佐々木 宏和, 斎藤 徹
    2009 年 70 巻 2 号 p. 354-357
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    目的:痔核の低侵襲性治療法として,硫酸アルミニウムカリウムとタンニン酸を用いたジオン注射硬化療法(ALTA)やProcedure for Prolapse and Hemorrhoids(PPH)は治療の選択肢を拡げた.その有用性を検討した.方法:2006年1月から2007年12月まで結紮切除術(LE)331例,ALTA 565例,PPH 73例を施行した.LEとALTAは2-3度の痔核脱肛を,PPHは全周性や粘膜脱を伴う脱肛を適応とし,成績を比較した.結果:LEは入院6.8±2.0日(m±SD)で再発はなかった.ALTA単独療法は日帰りで,注入量は痔核当たり7.1±2.1mLで狭窄や潰瘍はなく,痔核縮小・消退を543例(96.1%)に得られた.PPHは入院4.2±1.5日で疼痛や合併症なく72例(98.6%)で有効であった.考察:ALTAでは合併症の回避を重視し,重篤な合併症なく多数例で十分な効果を得た.PPH03は止血能が増し低侵襲性が向上したが,先進医療で自己負担額が高い.結論:LEは適応が広く再発はないが,術後痛を伴い入院が必要である.ALTAは外来治療が可能で疼痛や合併症も少ない.PPHは入院期間が短く疼痛も少ない.低侵襲性治療法は合併症の発生に留意して行えば,有用な方法である.
  • 稲垣 優, 田辺 俊介, 濱野 亮輔, 西江 学, 徳永 尚之, 常光 洋輔, 大塚 眞哉, 三好 和也, 岩垣 博巳
    2009 年 70 巻 2 号 p. 358-362
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    目的:大腸癌肝転移に対する肝切除後の予後につき,検討した.方法:1996年1月から2006年5月までに,当科で肝切除術を施行した大腸癌肝転移症例42例を対象とした.結果:対象症例の肝切除後3年生存率,5年生存率はそれぞれ79.0%,72.9%であった.単発群と多発群との比較では,多発群に残肝再発が多く(P=0.04),また,術後動注療法の施行率も高かった(P=0.027).単変量解析による予後因子の検討では,片葉と両葉,残肝再発の有無,肝外再発の有無の3因子が予後規定因子として抽出された.多変量解析による予後因子の検討では,肝外再発の有無のみが独立した予後規定因子として抽出された.結論:肝切除後は肝局所だけでなく,全身化学療法を導入することで,肝外再発のコントロールをすることが重要であると考えられた.
  • 中川 基人, 武田 真, 岡林 剛史, 隈元 雄介, 松本 圭五, 永瀬 剛司, 今井 俊, 江間 玲, 藤崎 洋人, 金井 歳雄
    2009 年 70 巻 2 号 p. 363-367
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    目的:恥骨後式前立腺全摘術(以下RPP)後の鼠径部ヘルニア(以下ヘルニア)はRPPの合併症の1つと考えられてきており,その病態を明らかにすることを目的とした.方法:ヘルニア手術患者およびRPP患者をretrospectiveに解析した.結果:男性待機手術ヘルニア患者388人のうちRPP後ヘルニアの患者は9人,2.3%であり,これはRPP患者84人の10.7%にあたる数であった.RPP後のヘルニアは両側に発症する頻度が高く,かつ1年以内の両側発症はRPP後でないヘルニアより多かった(p<0.01).手術所見では全例が間接型で,高度の炎症性変化のため腹膜前腔の剥離は困難な場合が多かった.RPP後ヘルニアの患者には発生原因との関連を疑わせる明らかな特徴を見出せなかった.結果:RPP後ヘルニアでは両側発生の可能性に留意して診断し,腹膜前腔の炎症性変化を考慮した術式の選択が肝要と考えられた.発生原因の解明と予防法の確立は今後の課題である.
  • 松谷 毅, 宮本 昌之, 柳 健, 丸山 弘, 松下 晃, 松田 明久, 横山 正, 鈴木 成治, 笹島 耕二, 田尻 孝
    2009 年 70 巻 2 号 p. 368-374
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    目的:再発鼠径ヘルニア症例に対する腹腔鏡下経腹的腹膜前メッシュ修復法(transabdominal preperitoneal mesh repair:TAPP)とopen mesh repair(OMR)の短期的な成績と有用性を検討した.対象と方法:1996年から2007年までの鼠径ヘルニア手術694例中再発は27例(4%)であり,その内メッシュを用いた修復は21例であった.TAPP(10例,61±4歳)とOMR(11例,62±2歳)を比較検討した.成績:手術時間は,TAPP 96±12分,OMR 108±11分と差はなかったが,術中出血量ではTAPP2±1mlに対しOMR 14±5mlと有意に高値であった.術後入院期間も,TAPP5±1日に対しOMR8±1日と有意に長かった.TAPPでは術後合併症を認めなかったが,OMRでは3例に皮下出血,1例に著しい疼痛を認めた.結論:再発鼠径ヘルニアにおけるTAPPはOMRより術後早期の愁訴が少なく早期に社会復帰可能な治療法として有用である.
症例
  • 二村 浩史, 内田 豊義, 神森 眞, 山田 哲
    2009 年 70 巻 2 号 p. 375-379
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    腺腫様甲状腺腫の穿刺吸引細胞診後にび慢性甲状腺腫大をきたした症例を経験した.その臨床経過と若干の文献的考察をした.患者は38歳,女性.他院にて,結節性甲状腺腫と診断され,その後増大するため当院紹介となった.既往歴,内服歴特になし.患側の左葉を22G注射針にて穿刺吸引細胞診を施行したところ,2~3分後から頸部圧迫感と疼痛を訴えた.エコーにて健側右葉が1cmから4cmに腫脹し,内部血流の増加を認めた.1時間頸部を氷片で冷却するも改善しないため,ステロイドを投与したところ急速に症状は改善した.9日間内服でステロイドを漸減しエコーを行ったところ,腫脹は改善していた.経時的にエコーで経過を追うことができた.術前後にステロイド投与を行ったところ,手術を完墜し合併症なく退院となった.穿刺吸引細胞診で偶然に甲状腺内の神経を刺激したため,血管拡張,血管透過性亢進物質が放出されて,び慢性の腫脹を引き起こしたものと推測された.
  • 敦賀 陽介, 高橋 弘昌, 折茂 達也, 数馬 尚之, 井上 行信, 高橋 雅俊
    2009 年 70 巻 2 号 p. 380-383
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は36歳,男性.17歳より統合失調症を発症し,前医にて入院加療を行っていた.転院時,高Ca血症,高ALP血症が指摘され,intact PTH(iPTH)も1,221pg/mlと高値であることから原発性副甲状腺機能亢進症と診断された.甲状腺右葉下極に4cm大の柔らかい腫瘤を触知し,US,CTでは同部位に嚢胞性腫瘤を認めた.MIBIシンチでも同部位に集積を認めたため,甲状腺内機能性副甲状腺嚢腫と診断,甲状腺右葉切除術を施行した.嚢胞内容液中のiPTH 317,400pg/mlであった.術直後よりiPTHの低下を認め,術後3日目より低Ca血症を認めた.病理組織検査では,嚢胞壁には主細胞に似た細胞からなる腫瘍組織を認め,主細胞腺腫と診断された.機能性副甲状腺嚢腫は比較的稀な疾患であり,甲状腺内に発生するものはさらに稀である.文献的考察を加え報告する.
  • 賀川 義規, 北田 昌之, 赤木 謙三, 高本 香, 塚原 康生, 島野 高志
    2009 年 70 巻 2 号 p. 384-388
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は35歳,女性.主訴は左乳房に有痛性の腫瘤を自覚し受診となる.触診,超音波検査,マンモグラフィー,CT,MRIより乳癌を強く疑い,切除生検を施行した結果,病理組織診にて肉芽腫性乳腺炎と診断された.また,肉芽腫性乳腺炎を発症して1カ月後に両側下腿に有痛性の紅斑が出現がみられ皮膚生検を施行し結節性紅斑と診断された.病変は経過観察のみで自然に軽快した.肉芽腫性乳腺炎は稀な乳腺良性疾患であり,臨床症状や画像診断では乳癌との鑑別が困難である.今回われわれは肉芽腫性乳腺炎に結節性紅斑を併存し自然軽快した稀な症例を経験した.文献的考察を加えて報告する.
  • 平光 高久, 間瀬 隆弘, 西 鉄生, 大西 英二, 橋本 昌司, 永田 二郎
    2009 年 70 巻 2 号 p. 389-393
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は46歳,女性.1995年頃から右乳房の腫瘤を自覚.2006年1月頃より急速に増大した.2006年7月当科紹介受診となった.右乳房全体を占める小児頭大の巨大な腫瘤を認め,針生検にて葉状腫瘍と診断した.浸潤部が疑われた大胸筋の部分切除を含めた胸筋温存乳房切除術および,腋窩リンパ節レベルII郭清を施行した.切除標本は,出血と壊死を伴う分葉状の淡黄白色腫瘍で,重量は3,927gであった.病理組織学的検査にて,悪性葉状腫瘍と診断した.今回われわれは,乳腺巨大悪性葉状腫瘍の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 宮本 良一, 柳澤 和彦, 山本 雅由, 稲川 智, 寺島 秀夫, 大河内 信弘
    2009 年 70 巻 2 号 p. 394-398
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は19歳,女性.腹部膨満感を主訴に近医受診し卵巣嚢腫と診断された.当院で右付属器切除術および大網部分切除術を施行された.病理組織診断は卵黄嚢腫瘍であった.術後13日目より抗癌剤治療を開始したが,開始後9日目頃より頻回の嘔吐を認め,イレウス症状が出現した.同時期より右頬部から頸部にかけての腫脹と握雪感も認めた.頸胸部CT検査では,胸部下部食道周囲から上縦隔,右頸部にわたり気腫像を認めた.食道造影検査では,造影剤の縦隔内への漏出は認めなかった.特発性縦隔気腫と診断し,保存的加療の方針とした.イレウス管を挿入し腸管内圧の減圧で嘔気,嘔吐は消失し気腫像の改善も認めた.
    今回,われわれは術後イレウスで頻回の嘔吐による胸腔内圧の上昇が契機と考えられた特発性縦隔気腫の1例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.
  • 西村 謙吾, 前田 啓之, 宮坂 成人, 森本 啓介, 谷口 巌
    2009 年 70 巻 2 号 p. 399-402
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,男性.2008年4月頃より安静時にも前胸部痛を自覚していた.心臓カテーテル検査で左主幹部,前下行枝,回旋枝基部に優位狭窄を認めた.胸部レントゲン検査で右上肺野に約2cmの境界不明瞭な陰影を認め,胸部CT検査で右S2に胸膜陥入を伴う径20×35mmの結節影を認め肺癌を疑った.気管支擦過細胞診と肺胞洗浄液細胞診より扁平上皮癌と診断された.左主幹部病変による虚血性心疾患と全身麻酔のリスクおよび患者さんの負担や早期治癒を考慮して,狭心症と右上葉肺癌に対して拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)と右上葉切除術を一期的に施行する方針とし,胸骨正中切開アプローチにて手術を行った.第13病日に心臓カテーテル検査にてグラフトの開存を確認後,第15病日に退院した.病理組織検査は扁平上皮癌でpT1N0M0,IA期であった.早期治療という点で一期的手術も考慮されるべきであると思われた.
  • 長谷川 雅彦, 半沢 善勝
    2009 年 70 巻 2 号 p. 403-406
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,男性.糖尿病を有していた.主訴は熱発,腰痛,両下肢の腫脹である.尿路感染症の診断のもと近医で治療を続けていたが軽快しないため当院に搬送された.腹部CT検査では腎動脈下腹部大動脈右側に突出した嚢状動脈瘤を認め,周囲にはガス像を有していた.動脈瘤は下大静脈を圧迫し,尾側下大静脈の内腔には血栓が充満していた.血液培養検査よりSalmonella speciesが検出された.下大静脈血栓症を合併した感染性腹部大動脈瘤と診断し手術を行った.手術に先立って下大静脈フィルターを留置した.手術はY型人工血管を用いて解剖学的再建を行った.現在術後3年半を経過しているが感染の再燃は認めていない.
  • 西川 敏雄, 井上 文之, 石井 泰則, 高橋 健司, 高橋 正彦, 大原 利章
    2009 年 70 巻 2 号 p. 407-410
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性.2007年12月下旬より呼吸困難を自覚していた.他院にて甲状腺癌による気管狭窄と診断されたものの治療困難と言われたため加療目的にて2008年1月上旬当院初診となった.画像上甲状腺に腫瘍を認め,気管は腫瘍の浸潤により声帯下3cmの部位より末梢側に5cmにわたって狭窄していた.甲状腺癌に対する手術適応はないと考え気管ステント留置を行うこととした.自発呼吸下にてラリンジアルマスクを挿入,次いでこれより軟性気管支鏡を挿入した.気管内にガイドワイヤーを挿入し狭窄部の末梢側にガイドワイヤーの先端を留置した後に気管支鏡のみを抜去した.ガイドワイヤーに沿って透視下にてデバイスを気管内に挿入し金属ステントを留置した.日常使用し慣れている軟性気管支鏡と挿入の容易なラリンジアルマスクを用いての気管ステント留置は全身状態不良である症例や特に声帯近傍でのステント留置に有用であると考えられた.
  • 梶浦 耕一郎, 福本 泰三
    2009 年 70 巻 2 号 p. 411-415
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    76歳,男性.慢性関節リウマチでメソトレキセートとプレドニゾロンを内服していた.2003年6月に下行結腸癌で腹腔鏡補助下下行結腸部分切除施行.pSMN0M0 stageIであった.2004年8月にはS状結腸癌を認め,腹腔鏡補助下S状結腸部分切除施行.pSMN0M0 stageIであった.2007年8月胸部CTで右肺S3に約3cmの結節影を認めた.血痰,胸痛,咳あり.精査にて慢性壊死性肺アスペルギルス症と診断した.ボリコナゾール(VRCZ)を先行投与し,経過中に病変の縮小と自覚症状の改善を認めた.右肺上葉切除+広背筋弁による気管支断端被覆術施行した.病理ではアスペルギルス菌糸を認めず,アスペルギルスが壊死吸収されたと思われた.慢性壊死性肺アスペルギルス症に対してVRCZが著効したと考えられた症例であった.
  • 大辻 絢子, 斉田 芳久, 中村 寧, 渡邊 良平, 長尾 二郎, 炭山 嘉伸
    2009 年 70 巻 2 号 p. 416-420
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は12歳,女児.腹痛,嘔吐を主訴に当院小児科を受診.上腹部全体に圧痛を認め,胸腹部単純X線検査・胸腹部CT検査にて左胸腔内に多量の消化管ガス像を確認した.横隔膜ヘルニアによる腸閉塞と診断し,入院当日に緊急開腹手術を施行した.左横隔膜外側後方の約5×3cmのヘルニア門より横行結腸,下行結腸,空腸,大網の一部が胸腔内に脱出したBochdalek孔ヘルニアであった.ヘルニア門を結節縫合により閉鎖し手術を終了した.術後経過は良好で,第7病日に退院した.
    問診にて,入院前日から激しい腹筋運動を施行していたことが分かっており,そのための腹圧上昇が発症の原因と考えられた.
  • 鷹野 敦史, 安留 道也, 鈴木 修, 井上 慎吾, 藤井 秀樹
    2009 年 70 巻 2 号 p. 421-424
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は42歳,女性.平成19年9月(月経2日目)に腹痛を主訴に当院を受診し,腹部CTで小腸の拡張と腫瘤性病変が認められ,腸閉塞の診断で入院となった.保存的治療施行後,入院8日目の腹部CTで腫瘤性病変は消失し腸閉塞の所見も認められないため一時退院となった.平成20年1月(月経2日目)に再び腸閉塞で再入院し,月経時に繰り返す腸閉塞とCTで認められる腫瘤性病変から異所性子宮内膜症が疑われた.MRIでも子宮内膜症を疑わせる腫瘤性病変が認められた.平成20年3月(月経3日目)に3度目の腸閉塞を発症し,開腹手術を行った.回腸末端に炎症性の癒着が存在し,小腸部分切除術を施行した.また5mm大の白色結節が口側腸管に散在していた.病理組織検査では子宮内膜症の診断であった.月経時に繰り返す腸閉塞と画像診断で術前より異所性子宮内膜症を疑った1例を経験したので報告する.
  • 藤井 幸治, 高橋 直樹, 松本 英一, 高橋 幸二, 宮原 成樹, 楠田 司
    2009 年 70 巻 2 号 p. 425-429
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は14歳,男児.腹痛,嘔吐を主訴に近医受診,精査のため当院を紹介受診した.腹部は平坦・軟,臍周囲に圧痛を認めた.腹部超音波検査では空腸が上腸間膜動脈を中心に捻転しており,中腸軸捻転を伴った腸回転異常症と診断,同日緊急手術を行った.術中所見では,空腸は上腸間膜動脈を中心に時計方向に720度捻転していた.腸管壊死を認めなかったため,整復後にLadd靱帯切離,虫垂切除を行った.術後経過は良好で,術後6日目に退院となった.中腸軸捻転の超音波診断には,whirlpool sign,SMV rotation signなどが特徴的である.超音波検査は低侵襲で簡便に繰り返し検査が可能で,嘔吐を呈する症例には中腸軸捻転も考慮し,積極的に施行すべきと考えられた.
  • 初貝 和明, 金田 巖, 庄司 勝, 石井 正, 舛岡 裕雄, 井上 宰
    2009 年 70 巻 2 号 p. 430-434
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,男性.腹痛を主訴に当院を受診した.腹部に限局した圧痛と筋性防御を認めた.dynamic CTにて遠位回腸に早期相で造影効果の不良な領域を認めた.腹部血管造影では腸間膜血管の攣縮像は認められなかった.試験開腹を行ったところ遠位回腸に非連続性の虚血性変化を認めたが壊死は認められなかった.塩酸パパベリンの持続動注を36時間行ったのちのCTでは遠位回腸は早期相から良好に造影されるようになり,second look operationでも回腸の血流は改善していた.NOMIは腹部血管造影での腸間膜血管の攣像をもって診断されることが多いが,本症例ではNOMIによる腸管の血流障害がdynamic CTの早期相での腸管の造影不良として描出された.
    dynamic CTで術前診断しsecond look operationで血流の改善を確認したNOMIの1救命例を経験したので報告した.
  • 里見 大介, 森嶋 友一, 豊田 康義, 山本 海介, 守 正浩, 小林 純
    2009 年 70 巻 2 号 p. 435-439
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    1986年から2007年までの当院の原発性虫垂癌手術症例の臨床病理学的検討を若干の文献的考察を加えて行った.同時期の大腸癌手術症例1,258例に対し原発性虫垂癌は10例(0.79%)であった.平均年齢59.7歳(43~72歳),男女比7対3.術前に虫垂癌と診断しえたのは1例(10%)のみだった.術式は回盲部切除5例,結腸右半切除1例,虫垂切除4例でうち1例は回盲部切除を追加した.組織型は,粘液嚢胞腺癌5例,腺癌5例(低分化1例).全例SS以深であった.リンパ節転移は1例(10%)に,肝転移を1例(10%),腹膜播種を3例(30%)に認めた.StageII7例,StageIV3例であった.生存例は8例で無再発生存5例,死亡例2例(いずれも腹膜播種)であり,再発形式は腹膜播種であった.術前診断は困難で,発見時に進行例が多く,特に腹膜播種率が高かった.集学的治療による予後改善が期待される.
  • 杉生 久実, 繁光 薫, 赤在 義浩, 三村 哲重, 木村 秀幸, 大原 利憲
    2009 年 70 巻 2 号 p. 440-443
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.下腹部痛,下血を主訴に当院救急外来を受診.初診時,腹部CTにて下行結腸から直腸にかけてほぼ全周性の壁肥厚を認め,虚血性腸炎の診断となり加療目的にて入院となった.入院後,ショック状態となったため,精査目的のため再度腹部CTを施行したところ,著明な腹腔内血腫を認め,動脈瘤破裂を疑い緊急手術となった.出血源は中結腸動脈瘤と判明し,結紮止血を得た.なお,腸管の色調は良好であったため,腸管の合併切除は施行しなかった.術後は経過良好にて13病日目に退院となった.以上,虚血性腸炎で発症し,その後出血性ショックをきたしたが,開腹後速やかに止血処置が行え救命しえた中結腸動脈瘤破裂の1例を経験したのでこれを報告する.
  • 浅野 智成, 禰宜田 政隆, 澤田 憲朗, 石川 忠雄, 伊藤 武, 神谷 勲
    2009 年 70 巻 2 号 p. 444-449
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,男性.自宅の庭で転倒し,受傷5日後に食欲低下を主訴に当院を受診した.腹部単純CT検査でMorrison窩・横行結腸腹側に含気のある軟部影を腸管外に認め,下部消化管の微小穿孔に続発した腹腔内膿瘍の疑いで入院となった.保存的に経過観察し,注腸検査で結腸肝彎曲付近および横行結腸中央部に造影剤の腸管外漏出を認めた.その後注腸検査で造影剤の腸管外漏出がないことを確認した上で,経口摂取を開始し,受傷後44日目に軽快退院となった.現在外来で経過観察中であるが,再燃の兆候は認められていない.下部消化管穿孔は致死的経過をたどる可能性が高いとされ,原則的には緊急手術の適応である.しかし,中には保存的治療により手術侵襲を回避できる症例も存在し,急性腹症を診療する上で念頭に置くべきと考えられた.
  • 吉田 直, 間遠 一成, 間崎 武郎, 石井 敬基, 増田 英樹, 高山 忠利
    2009 年 70 巻 2 号 p. 450-454
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,女性.既往歴に特記すべきことなし.前日の午後10時より腹部膨満・腹痛・嘔吐が出現した.腹部CT検査で大腸の著明な拡張を認めたが,大腸内視鏡では閉塞の原因は認めなかった.禁飲食・補液による保存的治療を継続したが改善せず,血圧低下・意識障害が出現しショックとなったため当科に転院となった.注腸造影でも通過障害や穿孔の所見は認めなかったが,ショックを呈していたため緊急手術を行った.開腹所見では盲腸から下行結腸まで著明な拡張を認めたが,S状結腸や直腸に病変は認めず,横行結腸に双孔式人工肛門を造設した.術後,人工肛門による減圧は良好で第19病日に退院した.人工肛門から腸管全層の病理組織診断を行ったが神経叢に異常はなかった.急激に発症し緊急手術を必要とする腸閉塞の原因として,急性大腸偽閉塞症を考慮する必要があると考えられた.
  • 松岡 宏樹, 池内 浩基, 平田 晃弘, 中村 光宏, 内野 基, 冨田 尚裕
    2009 年 70 巻 2 号 p. 455-459
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    親子発症の潰瘍性大腸炎(以下UC)に対し,ともに手術を行った1家系を経験した.母は51歳時に下血で発症し,全大腸炎型の潰瘍性大腸炎と診断された.ステロイドおよび5-ASA製剤で経過観察されていたが再燃緩解を繰り返し,ステロイドを増量,顆粒球除去療法(以下G-CAP)を行ったが症状の増悪を認め当科緊急入院となった.手術は緊急で全結腸切除・直腸粘膜切除・J型回腸嚢肛門吻合(以下IPAA)・回腸人工肛門造設術を行った.その後特変なく経過した.娘は18歳時に下血で発症し,全大腸炎型のUCに対しG-CAP・ステロイド療法・免疫調整剤等で経過観察されていた.再燃緩解を繰り返し社会生活にも支障をきたすようになり,難治性の診断で母と同様に全結腸切除・直腸粘膜切除・J型回腸嚢肛門吻合術・回腸人工肛門造設術を行った.術後経過は良好であった.母子ともに人工肛門閉鎖術を行い,経過観察中である.また家系内には母と娘以外には炎症性腸疾患の罹患者はいない.UCの家族内発生頻度は1.8%と報告されているが,母子ともにJ型回腸嚢肛門吻合を行った症例はわれわれが検索しうる限り存在しない.
  • 早野 康一, 松井 芳文, 成島 道樹, 谷口 徹志
    2009 年 70 巻 2 号 p. 460-463
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,男性.平成18年1月にS状結腸癌でS状結腸切除を施行した.1年後に肝S6に転移を認め,肝亜区域切除を施行.その後外来で経過観察していた.平成19年10月に外来で肛門痛を訴え,診察したところ肛門背側の皮下に2cm大の腫瘤を触れた.生検を行ったところS状結腸癌肛門管転移が疑われ,腹会陰式直腸切断術を行った.病理所見では腫瘍細胞は腺癌で,原発巣と組織像が類似していた.腫瘍の局在は上皮下であり,また粘液の産生は認められず,以上からS状結腸癌肛門管転移と診断した.
  • 吉敷 智和, 小林 隆, 照屋 正則, 小林 薫, 森田 恒治, 上西 紀夫
    2009 年 70 巻 2 号 p. 464-469
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは,重症COPDとITPを合併した進行S状結腸癌に対し,入念な術前準備と術式・麻酔方法の工夫により,HALSによる脾摘と開腹S状結腸切除+リンパ節郭清術を一期的に施行し,良好な結果を得たので報告する.症例は72歳,女性.下血を主訴に近医受診,下部消化管内視鏡検査にてS状結腸癌と診断され当院紹介となった.長期喫煙歴によるCOPDが併存し,呼吸機能検査で高度の閉塞性障害を認めた.外来初診時より禁煙・呼吸機能訓練・吸入気管支拡張剤を開始した.ITPも併存し,外科初診時の血小板数は1万/μlと低値であり手術直前にγブロブリン大量療法を行った.手術は,低侵襲手術と長時間気腹回避の観点より,HALSによる脾摘とHALS創を延長した開腹でS状結腸切除術+D2郭清施行した.麻酔は全身麻酔下で,筋弛緩剤使用を回避し,硬膜外麻酔とprobofol持続静注の併用による自発換気とした.術後経過は良好で術後第11日目退院した.
  • 竹下 雅樹, 鎌田 徹, 大場 大, 佐々木 省三, 吉本 勝博, 神野 正博
    2009 年 70 巻 2 号 p. 470-474
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は84歳,男性.便潜血陽性にて当院受診し,下部消化管内視鏡検査にて直腸癌を指摘され,低位前方切除術を施行した.病理組織学的には粘膜~粘膜筋板内にmicropapillary patternを呈する中分化管状腺癌を認め,漿膜下に腺癌の非連続性浸潤性増殖を認めた.また,リンパ節転移を認めた.他臓器同様にmicropapillary patternは大腸癌においても生物学的悪性度が高く,予後が悪いことが示唆された.
  • 外浦 功, 一瀬 雅典, 松原 久裕
    2009 年 70 巻 2 号 p. 475-480
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,女性.上腹部痛にて当科に入院した.38度を超える発熱と,採血データにて著明な炎症所見を認めた.画像検査にて,2カ月前には存在しなかった肝後区域に位置する径5cm大の腫瘤を認めた.造影CTでは腫瘤辺縁と,内部が樹枝様に造影された.MRIではT1強調で低信号,T2強調で高信号,拡散強調MRIでは著明な高信号を呈した.腫瘤の急速な増大と,発熱の持続による全身状態の悪化が懸念され,画像上も悪性疾患が疑われ,肝切除術を行った.切除標本は径5cm大の境界明瞭,辺縁不整,弾性・軟な被膜のない黄白色充実性の腫瘤であった.病理組織学的所見では病変部は線維性結合織の増生とリンパ球・形質細胞の浸潤を認め,肝炎症性偽腫瘍と診断された.拡散強調MRIにて著明な高信号を呈し,悪性腫瘍と鑑別困難であったとの肝炎症性偽腫瘍の報告例は,本症例が初めてである.
  • 中木村 繁, 神山 俊哉, 中西 一彰, 横尾 英樹, 松下 通明, 藤堂 省
    2009 年 70 巻 2 号 p. 481-485
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性.2006年近医で胆嚢結石症・胆嚢ポリープに対して腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した際に,S2,S5に1cm大の肝腫瘍を指摘されたが経過観察としていた.2007年9月に腫瘍径の増大と,新病変を認めたため当科紹介となった.CTにてS3,S5,S8に動脈相,平衡相にて腫瘍内部よりゆっくりと造影され,転移性肝癌,胆管細胞癌などを疑った.上部下部消化管検査,およびpositoron emission tonography(PET)検査を施行するも肝以外に腫瘍性病変を認めず,腫瘍マーカー(AFP,PIVKAII,CEA,CA19-9)も陰性であったため,肝生検を行いchromogranin Aが陽性,synaptophysinが弱陽性であり肝原発carcinoid腫瘍と診断した.治療は肝左葉切除,S5,S8部分切除を施行し,現在外来通院中である.carcinoid腫瘍は74%が消化管に原発すると報告されており,肝臓に原発することは稀であるため,文献的考察を加え報告する.
  • 上野 真一, 久保 文武, 迫田 雅彦, 平田 宗嗣, 樋渡 清司, 夏越 祥次
    2009 年 70 巻 2 号 p. 486-490
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    皮膚筋炎を合併した肝細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は67歳,男性.検診にて肝腫瘍を指摘され,精査・加療目的に入院した.その直前より,顔面・手背の皮疹と脱力感を自覚した.ヘリオトロープ疹やゴットロン徴候,筋電図所見および筋生検結果から,皮膚筋炎と診断された.さらに外側区域肝腫瘍は肝細胞癌(径3.5cm,最終的にStageIII)と診断されたが,肝炎ウイルスマーカーは陰性であった.肝外側区域切除を行い,術後4カ月のステロイド剤内服を行ったところ,術後10カ月目の現在も肝癌再発や皮膚筋炎症状の再燃は認められていない.皮膚筋炎と肝細胞癌との合併報告例は極めて稀ではあるが,皮膚筋炎における悪性腫瘍検索の際には,肝炎ウイルス所見に関わらず,肝細胞癌も念頭におく必要性はあると考えられた.
  • 玉置 信行, 田浦 康二朗, 小谷 泰一, 上本 伸二
    2009 年 70 巻 2 号 p. 491-495
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,女性.主訴は右季肋部痛.他院で右葉の肝細胞癌に対し肝動脈塞栓化学療法を施行されたが腫瘍が増大し,手術目的で当科へ紹介された.肝右葉前区域に主座を置く巨大肝細胞癌に対し,拡大右葉切除術を施行した(t3n0m0,stageIII).病理組織診断では低分化肝細胞癌であった.術後3カ月目よりAFPの上昇がみられ胸部CTで孤立性の縦隔内リンパ節転移を認めた.全身化学療法後にリンパ節摘出術を行った.病理組織検査でAFP陽性であり,肝細胞癌の転移として矛盾しない所見であった.術前のAFP値は5,425ng/mlであったが,術後には24.4ng/mlまで低下した.その後再びAFPの上昇を認め,全身化学療法を行ったが多発肺転移,多発縦隔リンパ節転移をきたし,初回手術後25カ月目に他界された.肝細胞癌術後に孤立性縦隔リンパ節転移をきたした稀な症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 藤川 幸一, 清水 瑠衣, 大森 敏弘, 渡辺 英二郎, 永井 基樹
    2009 年 70 巻 2 号 p. 496-500
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は慢性腎不全,2型糖尿病にて通院中の68歳,女性.意識障害を主訴に救急外来へ搬送され急性尿毒症の診断で内科に入院.入院後,血液透析にて意識状態は改善したが数度の吐血,タール便を認め上部消化管出血を疑い内視鏡検査を行った.3度目の内視鏡検査でVater乳頭からの出血を確認し胆道出血と診断した.腹部超音波検査ではdebris様内容物で腫大した胆嚢を認め,腹部造影CTで緊満した胆嚢と胆嚢内に直径3cm大のHigh density areaを認めた.胆嚢仮性動脈瘤破裂の術前診断にて手術を行い,小児頭大に腫大し緊満した胆嚢を認め摘出した.胆嚢内腔に突出する軟性,易出血性の腫隆を認め仮性動脈瘤と考えた.病理組織学的には胆嚢炎および血腫との診断であった.胆嚢出血は比較的稀な疾患であるが,吐下血の原因疾患として念頭に置く必要がある.
  • 遠藤 俊治, 小関 萬里, 畑中 信良, 富永 春海, 黒住 和史, 上池 渉
    2009 年 70 巻 2 号 p. 501-506
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例1は86歳,女性.右季肋部痛を主訴に当院救急搬送.腹部CT検査では胆嚢は萎縮し周囲に腹水貯留を認めた.胆嚢摘出術を施行.病理検査では,胆嚢体部から底部にかけ壊死が見られ,急性潰瘍による穿孔がみられた.症例2は82歳,女性.心窩部痛を主訴に当院救急搬送.CTでは胆嚢は萎縮し周囲に腹水貯留を認め,胆嚢摘出術を施行した.病理検査では,底部に壊死を認めた.2例とも胆嚢内に結石はなく胆嚢の炎症所見は乏しく,腹水培養検査は陰性で,特発性胆嚢穿孔と診断された.
    胆嚢穿孔はほとんどが胆石症や急性胆嚢炎によるものであり,それらの原因を認めない特発性胆嚢穿孔は比較的稀で,本邦ではこれまで32例の特発性胆嚢穿孔の報告がある.文献的考察を加え報告する.
  • 新谷 恒弘, 森 俊治, 磯部 潔, 中山 隆盛, 白石 好
    2009 年 70 巻 2 号 p. 507-511
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,女性.3日前よりの腹痛を主訴に来院.腹部超音波検査,CT検査にて胆嚢腫大,壁の肥厚を認め急性胆嚢炎と診断し同日,経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)を施行した.PTGBD後,炎症反応ならびに腹痛は速やかに改善したため,入院後8日目に待機的に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.胆嚢周囲の癒着を剥離したところ胆嚢は胆嚢管を中心に時計方向に約180度捻転しており,捻転解除後胆嚢を摘出した.胆嚢の肝床付着部はわずかであり,いわゆるGrossII型の遊走胆嚢に発生した胆嚢捻転症と考えられた.
    胆嚢捻転症は急性腹症の中でも比較的稀な疾患である.捻転による血流障害のために胆嚢壊死・穿孔など急激な臨床経過を辿るとされ緊急胆嚢摘出術が推奨されている.本症例はPTGBD挿入後穏やかな臨床経過を呈し,待機的に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行しえた点で示唆に富む症例と考えられた.
  • 竹林 克士, 仲 成幸, 塩見 尚礼, 来見 良誠, 谷 徹
    2009 年 70 巻 2 号 p. 512-515
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は45歳,男性.平成14年2月,近医にて胆嚢結石症,慢性胆嚢炎に対して胆嚢摘出術を行った.術中総胆管損傷を認めたので一期的に縫合閉鎖を行っていた.以後,著変無く経過していたが,平成19年8月全身倦怠感,黄疸を認め,当院内科を受診した.造影CTにて肝内胆管の拡張と中部胆管の狭窄および総胆管内に占拠する約10mm大の造影効果を示す腫瘤を認めた.中部胆管癌を疑い,胆管切除術,胆管空腸吻合術を行ったところ,切除胆管から約10mm大の壁外性の腫瘍性病変を認め,病理組織検査にて胆管断端神経腫と診断された.術後合併症認めず,術後13日目に退院となり,現在のところ著変無く経過している.胆管断端神経腫は,胆管狭窄を呈した場合,胆管癌との鑑別は困難である.胆道系手術後に胆管狭窄を認めた場合には本症の可能性も念頭においておくべきと考えられる.
  • 西川 隆太郎, 小西 尚巳, 木下 恒材, 池田 哲也, 登内 仁
    2009 年 70 巻 2 号 p. 516-519
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は44歳,女性.心窩部痛を主訴に,当院を受診された.精査の結果,総胆管結石症と診断され,当院消化器内科にて内視鏡的乳頭括約筋切開術を施行された.その際に行われた胆道造影で,上部胆管に直径3mm大の表面平滑な隆起性病変が認められた.外来での経過観察では,変化は認められなかったが,悪性疾患を否定できないため,手術目的で外科に紹介となった.手術では,胆嚢摘出後,経胆嚢管的に術中胆道鏡を施行した.腫瘤は粘膜下腫瘍様の像を呈したため,良性疾患を疑い,腫瘤部を楔状切除した.術中病理診断にて,異型細胞を認めない嚢胞との診断であったため,切除部よりT-チューブを留置し,手術を終了した.術後胆汁の漏出を認めたが,保存的治療にて改善し,術後第27病日目に退院となった.最終病理診断は胆管壁内の単純嚢胞であった.若干の文献的考察を加え報告する.
  • 石橋 雄次, 伊藤 豊, 若林 和彦, 山田 和昭
    2009 年 70 巻 2 号 p. 520-523
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.心窩部痛が出現し当院受診.総胆管結石による胆管炎の診断で入院となった.腹部超音波検査,CT検査にて胆嚢底部に不整形の腫瘤を認め,胆嚢癌の診断となった.胆管炎の治療の後,胆嚢摘出術を施行した.胆嚢内腔には体部から底部にかけて乳頭状に発育した腫瘤を認め,病理組織学的検索にて腫瘍は腺癌と紡錘形細胞肉腫からなり,胆嚢癌肉腫と診断した.胆嚢癌肉腫は極めてまれな腫瘍であり,若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 北岡 昭宏, 山岸 俊介, 大塚 一雄, 岩田 辰吾, 枡本 博文, 加藤 仁司
    2009 年 70 巻 2 号 p. 524-529
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    主膵管内に発育した非機能性膵内分泌腫瘍の稀な1例を経験した.患者は46歳,女性.心窩部痛で受診し,膵頭部腫瘤が認められ,精査目的で入院した.血液検査では腫瘍マーカー陰性で,消化管ホルモンは正常範囲であった.膵管造影検査では,膵頭部主膵管に辺縁整な陰影欠損を認め,末梢膵管は拡張していた.腹部超音波,CT,MRI,腹部血管造影およびPET検査では,膵頭部実質と主膵管内にそれぞれ多血性の腫瘤が認められ,両者は近接していた.膵内分泌腫瘍の主膵管内発育のほか重複腫瘍も疑い,膵頭十二指腸切除術を施行したところ,両腫瘤は繋がっており,病理学的に同一性が確認されて,最終的に非機能性膵内分泌腫瘍の主膵管内発育であると診断された.
  • 櫻川 忠之, 加藤 健司, 待木 雄一, 平松 聖史, 原 朋広, 吉田 カツ江
    2009 年 70 巻 2 号 p. 530-534
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例1は37歳,男性.健康診断で異常を指摘され当院を受診.腹部CTで体部膵管の途絶と尾側膵管の拡張,および尾側膵の萎縮を認めた.MRCPで主膵管の途絶と尾側膵管の拡張を認めた.浸潤性膵管癌の診断で膵体尾部切除術を施行した.切除標本で主膵管浸潤を伴う1.4cmの腫瘍を認めた.症例2は48歳,男性.急性膵炎の疑いで紹介受診.腹部CTで膵尾部に約1.5cmの腫瘍を認め,腫瘍より尾側膵管の拡張を認めた.ERPでは主膵管の途絶像を認めた.浸潤性膵管癌の診断で膵体尾部切除術を施行した.切除標本で主膵管浸潤を伴う1.3cmの腫瘍を認めた.2症例とも病理組織学的所見は小型の核を有する好酸性細胞の単調な増殖を認め,chromogranin A染色が陽性で各種ホルモン染色は陰性であった.以上より非機能性膵内分泌腫瘍と診断した.膵内分泌腫瘍において主膵管浸潤は悪性の所見と判断したほうがよいと考えられた.
  • 伊藤 貴明, 平松 聖史, 待木 雄一, 櫻川 忠之, 宮田 大士, 加藤 健司
    2009 年 70 巻 2 号 p. 535-539
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は25歳,女性.主訴は上腹部痛.2007年5月に主訴が出現し,当院内科受診.上部消化管内視鏡検査では異常を認めなかったが,腹部超音波検査で4cm大の膵体部に隔壁を伴う嚢胞性の腫瘤像を認めた.MRIとCTでは,多房性の嚢胞状腫瘍性病変を認めた.以上から膵嚢胞性腫瘍と診断し,2007年7月に手術を施行.術中所見では,腫瘍の表面は線維性の被膜は認めず,周囲への浸潤もなく,膵体部リンパ管腫と考えられ,腫瘍を含めた膵体部部分切除術のみを行った.術後経過は良好で,術後12日目に軽快退院した.病理組織学的検査では,膵海綿状リンパ管腫であった.膵リンパ管腫は良性疾患であり,今回われわれは,必要最小限の手術侵襲で膵機能を温存するように治療を行った.術前検査では,画像診断で,確定診断には至らなかったが,術中所見により膵リンパ管腫と診断し,腫瘍部分を含む膵部分切除を行った.
  • 黒田 武志, 河崎 秀樹, 金本 真美, 鷹村 和人, 吉田 金広
    2009 年 70 巻 2 号 p. 540-543
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,男性.12年前に急性膵炎を発症して以来,糖尿病のため近医に通院していた.平成18年2月から糖尿病が増悪し,腹部CTで膵尾部に腫瘤を認め当院紹介となった.腫瘍マーカーは全て正常範囲内であった.腹部エコー,CT,MRIでは膵尾部に径20mmの腫瘤と,その尾側主膵管の拡張を認めた.画像上は膵癌の可能性も否定できず,手術を施行した.開腹所見では膵尾部に表面に陥凹を伴う径20mmの硬結を認め,横行結腸間膜および横行結腸に強固に癒着していた.病変部以外の膵実質はほぼ正常所見を呈していた.膵体尾部切除術,摘脾術,横行結腸部分切除術を施行した.術後の病理組織診断では,腫瘤の中心部にコレステロール結晶とこれを取り囲む異物巨細胞を認め,コレステリン肉芽腫と診断された.本症は肝に発生したとする報告例は散見されるが,膵に限局した病変は稀であり,検索しえた限りでは本邦報告例はなかった.
  • 南 裕太, 上田 倫夫, 武田 和永, 田中 邦哉, 遠藤 格, 嶋田 紘
    2009 年 70 巻 2 号 p. 544-547
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は25歳,男性.2007年7月心窩部痛を主訴に消化器内科を受診した.血液検査で貧血が認められ,上部消化管内視鏡検査で,萎縮性胃炎と診断された.9月中旬,夕方より腹痛が出現し,23時当院の救急外来に受診した.CTで脾破裂に伴う血性腹水貯留をと診断したが,貧血も認めず,全身状態も良好であったため,経過観察のため入院した.翌朝,腹痛増強,腹膜刺激症状を認め,ショック状態となったため,脾破裂に伴う出血性ショックの診断で緊急手術とした.左腹腔内を中心に約3,000mlの血液および凝血塊と,脾臓の上極よりの出血を認めたため,脾摘出術を施行した.病理組織学的検査では脾破裂の原因となる病変を認めず,外傷の既往や,基礎疾患もないため,自然脾破裂と診断した.術後経過は良好で術後8日目に退院となった.
  • 湯浅 吉夫, 角 重信, 中光 篤志, 今村 祐司, 香山 茂平, 羽田野 直人
    2009 年 70 巻 2 号 p. 548-553
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,膵内副脾に発生したepidermoid cystの1例を経験したので報告する.症例は45歳,女性.平成13年9月,検診の超音波検査で膵尾部に嚢胞性病変を指摘され,近医にて経過観察されていた.しかし,腫瘤の増大傾向を認めたため,精査目的にて当院紹介となった.血液生化学検査では異常は認めなかった.CT検査では,膵尾部に大きさ2×2cm,単胞性で,壁に造影効果を認める嚢胞性病変を認めた.また,MRIではT1強調像で低吸収域,T2強調像で等吸収域を示していた.画像所見から膵嚢胞性疾患と診断し,悪性疾患も否定できないと判断,平成14年8月,手術を施行した.術中迅速病理診断を行ったところ,副脾を原発とするepidermoid cystとの結果であったため,腫瘤核出術のみ施行した.副脾の存在は珍しくないが,嚢胞性疾患の発生は極めて珍しい.過去の報告例を集計し,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 馬場 研二, 新地 洋之, 藏原 弘, 又木 雄弘, 夏越 祥次, 高尾 尊身
    2009 年 70 巻 2 号 p. 554-559
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.平成17年8月より全身の皮疹が出現し,近医にて加療されていたが軽快再燃を繰り返すため,原因検索目的に平成19年6月当院皮膚科紹介受診.皮疹は多形紅斑と診断.原因として感染症・薬剤アレルギー等は否定された.更なる精査目的行った腹部CT検査で,脾臓に腫瘍性病変を指摘されたため,当科紹介となった.Gaシンチグラフィー,PETにて同部位に集積を認めた.また,血液生化学検査において,可溶性IL-2レセプター抗体・チミジンキナーゼのいずれも陽性.これらの所見より,脾原発悪性リンパ腫と診断し,同年9月腹腔鏡下脾臓摘出術施行.術後1日目より皮疹の軽快を認め,術後3日目には掻痒感が消失,その後多形紅斑は消失した.脾臓の病理診断はdiffuse large B cell lymphomaであった.術後は補助化学療法を施行し現在術後10カ月無再発生存中である.本症例では多形紅斑と脾原発悪性リンパ腫との因果関係が示唆され,脾摘が多形紅斑の治療に極めて有効であった.
  • 四万村 司, 櫻井 丈, 牧角 良二, 月川 賢, 大坪 毅人
    2009 年 70 巻 2 号 p. 560-564
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    大腸癌に極めて稀な同時性孤立性脾転移を認めた症例を経験したので報告する.
    症例は85歳,女性.1997年初旬より便秘傾向を認め近医を受診し,内服薬の処方を受けていた.その後,症状の改善が認められず,また腹痛も出現したため同年中旬に注腸検査施行した.S状結腸に全周性の狭窄を認め,精査,治療目的で当院紹介入院となる.入院後精査にてS状結腸癌の診断を得たが,腹部CTにて脾門部近傍に腫瘤を認めた.S状結腸癌,脾腫瘍(転移性脾腫瘍疑い)の診断にて,S状結腸切除,脾摘出術を施行した.病理組織診断にて脾腫瘍はS状結腸癌と同一の組織であったため転移性脾腫瘍と診断した.術後4カ月後よりCEAの再上昇を認め,8カ月後に右腎臓,肺への転移を認め術後2年1カ月後に死亡された.
  • 吉村 文博, 古田 晋平, 金谷 誠一郎, 小森 義之, 櫻井 洋一, 宇山 一朗
    2009 年 70 巻 2 号 p. 565-569
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,女性.腹痛と嘔吐を主訴に近医受診後,当科紹介となった.入院時腹部単純CT上所見にて骨盤内に拡張した小腸を認め子宮が右側に偏位していた.イレウス管の挿入で症状は軽快したが,下部小腸に完全狭窄を認め,入院7日目に診断確定,加療のために腹腔鏡下手術を行った.回腸末端より約1mの回腸が左子宮広間膜に生じた径3cmの裂孔に嵌頓していた.嵌頓した回腸を還納し,裂孔を吸収糸にて縫合閉鎖した.術後経過良好で術後9病日に退院となる.
    子宮広間膜裂孔ヘルニアは,子宮広間膜に生じた異常裂孔に起因する内ヘルニアであり比較的稀な疾患である.今回,イレウス症状にて発症した子宮広間膜裂孔ヘルニアの1手術例を経験したので,本疾患の本邦報告例を集計しその臨床学的特徴を考察した.
  • 山口 方規, 徳永 裕貴, 甲斐 秀信
    2009 年 70 巻 2 号 p. 570-573
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,女性.突然の右側腹痛,嘔吐を主訴に当院救急搬入された.右下腹部と下腹部正中に手術痕を認めた.右下腹部に高度の自発痛・圧痛を認め,腹部単純X線写真で小腸広範に拡張像とガス像を認めた.腹部CT検査で上行結腸外側にも著明に拡張した小腸を認め,上行結腸は正中へ変位していた.鎮痛剤,鎮静剤にて疼痛の軽減を図ることが困難であった.術後癒着性イレウスまたは内ヘルニアの嵌頓と考え,試験開腹術を施行した.開腹所見では腹腔内の癒着をほとんど認めず,上行結腸外側の傍上行結腸窩に小腸が嵌頓していた.ヘルニア門を開放し小腸を整復した.嵌入した小腸は壊死に陥っていなかったため,小腸切除は施行しなかった.ヘルニア門を縫合閉鎖し手術を終了した.術後経過は良好で術後18日目に軽快退院となった.傍上行結腸窩に起こる内ヘルニアは非常に稀な疾患であり,画像所見も特徴的であったので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 兼田 博, 滝野 史朗
    2009 年 70 巻 2 号 p. 574-577
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性.右下腹部痛のため来院した.右下腹部に限局性の圧痛を認め,虫垂炎が疑われたが,発熱はなく,血液検査での炎症反応も軽微であった.腹部CT検査で回盲部に腫瘤を認め,虫垂炎による膿瘍形成か盲腸腫瘍が疑われた.炎症反応が軽微であったため腫瘍の可能性を考慮して大腸内視鏡検査を行ったが,盲腸に腫瘍性病変や憩室等は認めず,虫垂像影でも虫垂炎は否定的であった.確定診断と治療のため開腹術を施行した.虫垂は正常で,回盲部に径約6cmの炎症性腫瘤を認め,回盲部切除を行った.回盲弁から5cmの回腸に憩室があり,腸間膜膿瘍を形成していた.病理組織所見で,憩室は腸管と共有の平滑筋層を有し,回腸重複症と診断された.術後経過は良好で術後第13病日に退院された.
  • 高橋 広城, 今藤 裕之, 原 賢康, 佐藤 幹則, 竹山 廣光
    2009 年 70 巻 2 号 p. 578-582
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性.慢性腎不全に伴う高K血症のためにポリスチレンスルホン酸カルシウム(アーガメイトゼリー)を内服していた.2008年4月3日に突然下腹部痛が出現し,近医を受診した.穿孔性腹膜炎の診断で当院に緊急搬送され,同日緊急手術を施行した.開腹するとS状結腸に非常に硬い便塊を認め,S状結腸に陥頓していた.この口側の腸管は約10cmにわたり漿膜が裂けており,その一部に1.5cmの穿孔を認めた.損傷部位を含めてS状結腸を切除し,腹腔ドレナージおよびHartmann手術を行った.術後は集学的治療を行い,救命することが可能であった.病理学的には損傷部位および便塊にcrystalline materialが確認され,アーガメイトゼリー内服がS状結腸穿孔の発症に強く関与していることが予想された.同薬剤内服時における排便コントロールの重要性が強く示唆された症例であった.
  • 河村 史朗, 西向 有沙, 安田 貴志, 島田 悦司, 奥村 修一
    2009 年 70 巻 2 号 p. 583-587
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,女性.右下腹部腫瘤を主訴に当科受診,右下腹部に9cm大の腫瘤を触知,圧迫により右大腿前面に放散痛を認めた.腹部CT,超音波,MRI検査では骨盤内に境界明瞭な腫瘤を認めた.大腿神経原発後腹膜神経鞘腫を強く疑い,手術を施行した.腫瘍は腸腰筋の腹側に位置し,大腿神経を腹側に圧排,一部癒着していた.腫瘍を大腿神経より慎重に剥離し,摘出した.術後は右大腿前面に軽度の知覚鈍麻を訴えたものの,数日間で消失した.病理組織学的には良性神経鞘腫であった.大腿神経原発後腹膜神経鞘腫の摘出時においては神経切除により術後に軽度でない神経障害をきたすため,術前および術中に悪性所見を認めない限り神経を温存すべきであると思われた.
  • 松末 亮, 船木 なおみ
    2009 年 70 巻 2 号 p. 588-593
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    摘出術後に血清CEAの上昇を認めた,後腹膜原発粘液性嚢胞腺腫の1例を経験したので,報告する.症例は67歳,女性.腹部膨満を主訴に来院した.CT検査にて,骨盤部から十二指腸に至る,巨大な多房性嚢胞性病変を認めた.開腹したところ,腫瘍は後腹膜に存在しており,en blocに摘出した.腫瘍は所々肥厚した隔壁を有する多房性の嚢胞を本体とし,その内容物は無色透明からやや白色がかった粘液であった.病理組織学的には,嚢胞の内面に円柱上皮細胞がみられ,その一部に異型細胞を認めたため,borderline malignancyの後腹膜原発粘液性嚢胞腺腫と診断された.その後経過観察中に原因不明の一過性血清CEA上昇を認めた.術後に血清CEAが上昇した症例は稀であり,本邦での後腹膜原発粘液性嚢胞腺腫の報告例と併せて文献的考察を加えて報告する.
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