2010 年 71 巻 7 号 p. 1850-1854
症例は66歳,女性.2007年3月にVater乳頭部癌に対して幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)+Child変法再建を施行した.病理検査所見はnon-invasive tubular adenocarcinomaで,総合的根治度はAだった.術後経過は順調だったが,第26病日と第28病日に下血を認めた.出血シンチグラフィーで,上部小腸内から出血している所見を認め,血管造影検査で空腸動脈からの出血と診断した.そのため上部内視鏡検査を再度施行し,挙上空腸輸入脚の潰瘍から動脈性出血を認めたため,クリップで止血した.止血後はPPIを継続投与し,再出血はなく,第44病日に軽快退院した.PPPD後の空腸潰瘍の頻度は少ないが重症化の報告もある.本症例はBraun吻合により挙上空腸輸入脚のPHが低下したことが潰瘍形成に関与したと考えられ,再建法の更なる工夫と周術期の胃酸調整が必要と思われた.