2011 年 72 巻 8 号 p. 2163-2166
症例は72歳,男性.主訴は右鼠径部膨隆.右鼠径ヘルニアの診断で前方アプローチにてヘルニア修復術を施行したが,ヘルニア嚢は確認できず内鼠径輪から脱出する脂肪組織を認めた.術後腹部造影CT検査を行ったところ,下腹部に大部分が脂肪濃度を呈する15×10cm大の腫瘤を認め,脂肪肉腫が疑われた.再手術を行い,開腹にて腫瘍を摘出した.腫瘍は恥骨上部から発生した,高分化型脂肪肉腫であった.腹腔内へと増大した脂肪肉腫が,鼠径部膨隆を契機に発見された症例は過去に10例の報告があり,10例全てが後腹膜から発生したものであり,恥骨上部から発生した脂肪肉腫が,鼠径部膨隆を契機に発見されたのは本症例が1例目である.腹腔内へと増大した脂肪肉腫が,鼠径部膨隆を契機に発見されることは稀であるが,膨隆の硬度や還納性に異常を認めた場合は,腹腔内への脂肪肉腫の増大を考慮し,腹部の精査が必要である.