2012 年 73 巻 1 号 p. 194-197
症例は75歳,女性.左鼠径部の膨隆,疼痛を主訴に当院を受診し,左鼠径ヘルニア嵌頓の診断で同日入院となった.左鼠径部に約20cm大の用手的還納が困難な腫瘤を認めた.CT上,内部に便塊を伴った管腔構造を認め,腸管の嵌頓と診断し同日緊急手術を施行した.鼠径管およびヘルニア嚢を解放すると淡血性の腹水および回盲部を認めた.ヘルニア内容の還納は困難であり,盲腸前壁に漿膜欠損を認めたためこの部を全層切除し,減圧後に2層で縫合閉鎖し還納した.虫垂切除は行わなかった.鼠径部はBassini法にて後壁補強を行った.回盲部が嵌頓した鼠径ヘルニアは稀であり,さらに左側,女性での報告は極めて稀と考えられる.後日施行した注腸検査で腸管固定異常を認め,回盲部は左側に偏位していた.左鼠径ヘルニア嵌頓でも腸管固定異常を念頭に入れ,本症を疑う必要があると考えられる.