抄録
症例は100歳,女性.腹痛を主訴に近医を受診し,鼠径ヘルニア嵌頓の診断で用手整復された.その後腸閉塞が出現し,CT検査で大腿ヘルニア嵌頓と診断され,手術目的に転院となった.右鼠径部の圧痛と腹部膨隆を認めたが,鼠径部の膨隆はなく,腹膜刺激症状も見られなかった.当院のCT検査では,右鼠径部に閉塞機転はあるが,脱出腸管がはっきりしなかった.大腿動静脈の内側には液体の貯留を認めた.大腿ヘルニア嵌頓の疑いで緊急手術を行った.腸管を緩徐に整復したところ,小腸は大腿輪ではなく,腹膜前腔に陥入しており,肥厚した腹膜がヘルニア門となって,絞扼していたことが判明し,大腿ヘルニア偽還納と診断した.壊死腸管の切除とメッシュによるヘルニアの修復術を施行した.術後経過は良好であった.本邦で大腿ヘルニア偽還納の報告例はない.鼠径ヘルニア偽還納の症例をもとに,ヘルニア偽還納について若干の文献的考察を加えて報告する.