2012 年 73 巻 8 号 p. 2002-2006
症例は67歳,男性.腹痛を主訴に来院し,精査の結果S状結腸癌による大腸閉塞と診断した.経肛門イレウス管を挿入し腸管減圧後,S状結腸切除術を施行した.術後経過は良好であったが,第8病日より下血,腹腔内出血,筋肉内出血,皮下出血などが認められるようになった.各種凝固検査でPT正常,APTTの延長,第VIII因子活性の低下,第VIII因子インヒビターを認め後天性血友病Aと診断した.第VIII因子製剤とステロイド投与を開始し,他院血液内科に転院とした.その後ステロイド単独,サイクロスポリン単独無効でシクロフォスファミドとステロイドの併用療法で部分寛解し救命することができた.後天性血友病は極めてまれではあるが,死亡率が高く重篤な疾患である.悪性腫瘍との合併も報告されており,われわれ外科医も原因不明の出血傾向を認めた場合本症を念頭に置いた診療が必要と考える.S状結腸癌術後に後天性血友病Aを発症し,救命しえた1例を経験したので報告する.